私は、この度、2020年度(令和2年度)第二東京弁護士会会長選挙に立候補いたしました。もとより浅学非才の身ではございますが、当会および日弁連の抱える諸課題に全力で取り組む所存ですので、何卒、会員の皆様の温かいご支援・ご指導を心よりお願い申し上げます。
さて、立候補に当たってのスローガンを「発見!発信!~法曹の魅力を二弁から~」とさせていただきました。これは、二弁から法曹の魅力を強力に発信し、外に向かっては、司法や法曹に対する国民・市民の信頼を醸成・強化するとともに、内に向かっては、弁護士自治の堅持とそれを支える弁護士会活動の活性化を図ることを念頭に置いています。
国民・市民の司法・法曹への期待や信頼は、やはり多数決原理では解決できない、少数者・弱者の救済あるいはその人たちが直面する法的問題の適切な解決にあると思います。子ども、高齢者、障害者、外国人やLGBT、ジェンダー等の少数者、社会的弱者の人権の擁護、毎年のように起こる地震、台風などの被災者の救済などに継続して取り組みます。また、憲法改正論議に対しても、立憲主義を堅持する観点から、国民・市民の皆さんに十分な議論の素材を提供していきたいと考えています。さらに、司法・法曹への信頼は、適時適切な法的解決への信頼なくしては成り立ちません。そのためには、IT化をはじめとする、社会状況やテクノロジーの変化に対応した、使いやすい頼りがいのある司法制度構築のために、民事・刑事・行政全般にわたる司法制度の改革論議を継続的に発展させていくことが必要と考えています。また、司法アクセスのさらなる改善も必要です。
少数者・社会的弱者に寄り添うことは、時には権力と対峙することも必要となります。私たち弁護士が毅然として権力に立ち向かえるためには、弁護士自治が何よりも重要と考えています。しかしながら、弁護士自治は所与のものではなく、国民・市民の支持と弁護士の側の不断の努力がなければ簡単に失われてしまうものです。弁護士自治の核心は、弁護士会を通じて、弁護士のことは弁護士自身が決めるという点にあると考えますが、残念ながら、最近では、総会などの公式の場においても、経済的な理由などにより、弁護士会活動に消極的だったり、強制加入団体制に否定的な意見が述べられたりすることがあります。このような意見に対して、頭から否定するだけでは弁護士自治が守れるわけではありません。一方では、弁護士会の諸活動が本当に国民・市民のため、あるいは弁護士自身のために役に立っているのかを常に見直すとともに、弁護士自身の足腰を強くするために、活動領域の拡大、拡大した活動領域に対応できるスキル等を身につけるための研修の充実、このようなスキルを身につけた弁護士への市民からのアクセス改善などに積極的に取り組みます。
法曹や司法が国民・市民から信頼されるためにも、また弁護士自治を支える弁護士会や弁護士事務所の発展という意味でも、法曹志望者が減少している、優秀な人材が法曹を目指さない、というのは極めて憂慮すべき問題であり、弁護士会としても積極的に取り組む必要があります。法曹を志望するかどうかの考慮要素としては大きく分けて3つあるように思います。1つ目は、法曹になることのメリット(特に経済的な面)、2つ目は、法曹になるためのコスト(時間とお金、目指してもなれないというリスクを含みます)、3つ目は、法曹という職業自体の魅力・やりがいです。1つ目の問題については、(法曹は決して他の職業に比べて収入面で劣ってはいないと考えていますが)さらなる経済的な安定を目指して、活動領域の拡大、法テラス報酬の増額、弁護士保険の拡大などに努めます。2つ目の問題については、新たに導入される3+2(学部3年法科大学院2年)コースや司法試験改革などの成果を注意深く見守るとともに、より多様な人材が法曹界に集まれるよう未修者教育の充実に努める必要があります。また、修習生の修習給付金のあり方についても検討の必要があると考えています。3つめの問題については、主として広報の問題ですが、一般の人にも、弁護士自身にさえも、従来のような法廷活動だけではない、国内にとどまらない、より広く深くなりつつある新たな法曹の魅力・やりがいについて、まだまだ十分に知られていないように思います。弁護士会としてそのような新たな活動を支援するとともに、積極的な外部への発信に取り組みたいと考えています。
その他諸問題に対する取り組みについては、下記に詳しく述べますが、いずれの問題に対しても、会員の皆様のご支援、ご協力を仰ぎながら、積極的に進めて参る所存ですので、何卒よろしくお願い申し上げます。
2020年(令和2年)1月21日
岡田 理樹
1959年(昭和34年) | 京都府京都市で出生 |
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1977年(昭和52年) | 東京都立西高等学校卒業 |
1978年(昭和53年) | 東京大学文科1類入学 |
1986年(昭和61年) | 東京大学法学部卒業 |
1988年(昭和63年) | 司法研修所修了(40期)第二東京弁護士会登録 石井法律事務所入所 |
1994年(平成6年) | 米国イリノイ大学ロースクール卒業 |
2007年(平成19年) | 副会長 |
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2008年(平成20年) |
研修センター委員長 |
2015年(平成27年) | 研修センター委員長 |
2016年(平成28年) | 倫理委員会委員長 |
2017年(平成29年) | 互助会運営委員会委員長 |
2017年(平成29年) | 憲法問題検討委員会副委員長(至現在) |
2018年(平成30年) | 財務委員長 |
2019年(平成31年) | 総務委員長(至現在) |
2008年(平成20年) | 常務理事 |
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2010年(平成22年) | 事務次長(2012年まで) |
2012年(平成24年) | 法曹養成制度改革実現本部事務局長(2014年まで) |
2016年(平成28年) | 司法調査室副室長(2019年まで) |
人権とは、すべての人が生まれながらに持っている人間が人間らしく生きるための権利であり、個人の尊厳や自由は、誰にとっても大切で尊重されなければならないものです。
ところが、複雑化する現代社会において、消費者被害、子どもに対するいじめ、労働問題、貧困や格差の問題等に伴い、大切に守られるべき権利がおびやかされるという人権侵害が後を絶ちません。高齢化社会や外国人労働者の増加に伴い、高齢者や外国人の人権を擁護する必要性も高まっています。
当会では、人権擁護委員会が、市民から申し立てられる様々な人権救済申立事件を調査し、必要に応じて勧告や意見の表明をすることにより、行政機関等による人権侵害状態を改善してきました。
社会で巻き起こる問題に対し、広く正義をいきわたらせ、全ての人々が安心して生活を送ることができるよう、今後も当会は、各種制度や委員会活動を通して、人権侵害を受けている人々や侵害されるおそれのある人々の権利を擁護するため、以下のような様々な活動に取り組んでいきます。
当会は、消費者問題対策委員会を中心に、悪徳商法、インターネット上の違法行為、特殊詐欺等の消費者問題への対応に力を入れています。QRコード決済や暗号資産(仮想通貨)等の決済手段の多様化、いわゆるGAFA等のデジタル・プラットフォーマーを巡る問題の国際化、特殊詐欺事案の組織化等、消費者問題はますます複雑化しており、消費者契約法等の関係法令の改正も相次いでいます。次年度は、消費者被害の予防や被害者の救済のために、立法提言や、会員への情報提供、研修の充実化等に積極的に取り組みます。
現在、高齢者や障がい者を社会全体で支え合う共生社会の実現のため、成年後見制度の運用見直しなどが進められており、関係機関との具体的議論に引き続き積極的に参加していく必要があります。また当会では、2017年度にホームロイヤー制度の運用を開始しましたが、家族信託の活用も含め、人材を育成し充実発展させていくことが求められます。他方で、後見人等の不祥事の問題について、弁護士の信頼維持のため今後も真摯に取り組む必要があります。
その他、行政・福祉・医療等の外部関係機関との連携協力体制や相談事業等を継続していくとともに、退院請求等当番弁護士制度の運用開始に向けた整備も進める等、高齢者・障がい者の権利擁護のための活動を一層充実するよう努めます。
子どもに対する虐待やいじめに関する痛ましい事件が起きている中、未来を託す子どもの人権を擁護する必要性が高まっています。
子どもの権利条約の趣旨に則り、日弁連と連携して、子ども一人ひとりが権利の享有主体であり、成長発達権、意見表明権を有することを明記した子どもの権利基本法の制定に向けて取り組んでいきます。また、特別養子縁組等の児童福祉に関する法制度につき、弁護士が積極的に関与して、子どもをサポートできる環境の整備を進めます。
いじめ問題については、弁護士が第三者委員会の委員として果たす役割が高まっている中、当会として、弁護士委員の活動環境の確保等のサポートをするとともに、当会の相談窓口(キッズひまわりホットライン)の広報や「いじめ防止授業」等も積極的に進めていきます。
また、学校における体罰問題、少年法の適用年齢問題、子どもの手続代理人制度の活用・費用国費化の運動等にも対応していきます。
長時間労働の是正を含む働き方改革関連法が2019年4月に施行されていますが、長時間労働に伴う過労死の問題のみならず、ブラック企業、ハラスメントの横行、ワーキングプア問題など、様々な問題が生起しています。言うまでもなく、働く人達の生命や健康を守ることが最優先の事項であり、これを実現するためには、弁護士が労使それぞれの立場から労働問題に積極的に関与し、労働関連法が定める基準に照らして実態の是正・改善を図っていくことが必要であると考えています。当会としては、労働法制委員会の取組みや研修等を通じて、働きやすい、働きがいのある職場環境の実現を目指すとともに、そのような会員の活動を支援していきます。
生活保護申請に対する弁護士の支援、申請拒否に対する運用改善の働きかけなど、経済的弱者保護のため実効性のある生活保護法制の立法・適切な運用を目指していきます。
2017年の第60回人権擁護大会の決議に沿って、犯罪被害者等の誰もが等しく充実した支援を受けることができる社会の実現を目指します。具体的には、経済的被害回復のための制度や損害賠償の実効性確保のための必要な措置などの検討・実施を求めていきます。また、犯罪被害者に十分な法的支援を届けるべく、被害者支援弁護士をさらに育成していくとともに、弁護士による被害者支援活動を一層拡充し、現在実施している東京地方検察庁、警視庁及び民間支援団体等の関係機関との連携も、さらなる充実を目指して進めていきます。
2018年12月、新たな在留資格を付与する出入国管理及び難民認定法の改正法が成立し、外国人労働者の増加が見込まれる中、技能実習制度や入国管理センターにおける長期収容・死亡事故等様々な在留外国人の人権問題が浮き彫りになってきました。このような動きの中、国内に在住する外国人の人権問題(在留資格、難民申請、労働問題、収容問題など)や定住化する外国人の親族・相続問題など、外国人の法律問題に対応できる担い手の確保が急務であり、当会は、日弁連とも連携しながら研修の強化を含め積極的に対応していきます。
また、2018年8月国連の人種差別撤廃委員会は、国籍を理由とした差別やヘイトスピーチについて、総括所見を示しました。この所見を受けて、日弁連は、日本政府と建設的対話を継続し、総括所見で示された課題の解決のために尽力する旨の声明を発表しています。当会も、日弁連と連携して、人種的差別のない社会の実現に向けた諸活動を積極的に続けていきます。
人権分野でもグローバル化が求められています。とりわけ、国際人権規約をはじめとした各人権条約に定める個人通報制度の導入と国連の「国内人権機関の地位に関する原則(パリ原則)」に則った政府から独立した国内人権機関の設置が急務です。当会は、2011年にこの二つの実現を政府・国会に求める総会決議を採択しており、また日弁連も2019年10月の人権擁護大会において「個人通報制度の導入と国内人権機関の設置を求める決議」を採択しました。当会においても、引き続き個人通報制度の導入と国内人権機関の設置の実現に向けた活動に、日弁連及び他の弁護士会とも連携して取り組みます。
個人がいかなる性的指向や性自認を有するかは、個人の尊重と幸福追求権を規定する憲法13条により保障されており、これを理由とする差別は、法の下の平等を規定する憲法14条に反します。性的少数者の権利に対する意識を啓発し、多様な性のあり方を認めて性的少数者に対する差別を解消することは、憲法が保障する少数者の人権保障の理念に沿うものです。
当会は、LGBTに関する研修会の開催、出張講義、2016年度関弁連定期大会における「性的少数者の基本的人権の擁護及び多様な性を尊重する社会の実現を目指す宣言」の提案等の活動をしてきました。
2019年7月には、日弁連が「同性の当事者による婚姻に関する意見書」を発出しており、国際機関からの勧告等もふまえ、当会では、今後も、性の多様性を理解・啓発するための活動や相談体制の整備等を進めていきます。
ここ数年、日本各地で「これまで経験したことのないような」あるいは「数十年に1度の」と言われる集中豪雨や台風が発生し、また、夏は記録的な猛暑に、冬は関東甲信地方を中心に大雪に見舞われるなどしています。このような異常とも思われる気象現象は地球温暖化と関係があると言われています。世界気象機関(WMO)では、気候変動により「勢力の強い台風やハリケーンが増えている」と指摘し、温暖化対策を取らなければ21世紀中に気温が3~5度上昇し、22世紀には8度上がると警告しています。国連の事務総長も「温暖化対策をいますぐ取らなければ不可逆的な影響が生じてしまう」として各国政府に迅速な対応を呼びかけています。
これらの気候変動は災害に直結するものでもあり、私たち弁護士、弁護士会も無策・無関心であることは許されません。当会としても、環境保全委員会を中心に地球温暖化等の環境問題についての検討を継続し、持続可能な社会の実現を目指すとともに、災害対策委員会とも連携して適切な対策・対応を行っていきます。
また、当会は、環境マネジメントシステム「KES」の認証を得ていますが、さらにペーパーレス化をいっそう進めるなどして、より環境負荷の少ない組織体を目指します。
反社会的勢力による被害は現在も後を絶ちません。暴力団対策法を始めとする数々の対策にもかかわらず、反社会的勢力はその姿を変容し、活動を続けています。これまで弁護士及び弁護士会は、反社会的勢力からの被害を防止し、また救済するために尽力してきました。最近では、特殊詐欺の被害者救済のために暴力団組長を相手に使用者責任による損害賠償請求の訴訟を提起して争っています。反社会的勢力対策・民事介入暴力対策は法の支配を実現するための重要な活動であり、その活動を効果的に行うためには、個々の弁護士だけではなく、弁護士会が組織として支援し、対応する必要があります。当会としても、引き続き断固たる決意を持って、この重要な役割を担っていきます。
住宅の品質確保の促進等に関する法律制定から20年、住宅瑕疵担保履行法の完全施行から10年が経過しました。住宅を巡るトラブルを未然に防ぎ、万一トラブルとなった場合も消費者の立場にたって紛争を速やかに解決できる手段が整えられつつあります。しかしながら、これら紛争処理制度を周知しその活用を推進すること、制度を利用できる対象を拡大すること、紛争処理制度を利用した場合の時効の完成猶予効の付与等が課題であると指摘されています。当会としても、日弁連と連携して、かかる課題の解決に向けた働きかけをしていきます。
当会は、会員による人権擁護活動を支援するため、2011年に人権救済基金を設立し、人権侵害事件の解決に携わっている会員に対して弁護士費用等の必要な援助を行っています。今後も人権救済基金を活用していくことにより、人権侵害のない社会の実現を目指した取り組みを続けていきます。
国家権力を制約し、国民の基本的人権・自由を保障するという日本国憲法の立憲主義を堅持することは、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする弁護士と弁護士会の責務です。
憲法が国家権力を縛るものであることをあらためて確認し、立憲主義に違背する事態には毅然と対峙するとともに、このような立憲主義の重要性や憲法の意義を国民・市民が正確に知ってもらうための活動(知憲活動)にも力を入れていきます。
いわゆる安全保障関連法は、憲法改正手続を経ることなく、歴代内閣が憲法上許されないとしてきた集団的自衛権の行使を容認するものであって、憲法前文及び同第9条に定める恒久平和主義に反するものであるとともに、立憲主義に反しているといわざるを得ません。
当会では、日弁連、関弁連、東弁、一弁と協力して、このような安全保障関連法の憲法的な問題を国民・市民に直接訴えかける街頭宣伝活動を続けており、昨年は、その活動に対して関弁連賞が授与されました。今後も引き続き、国民・市民に問題点を分かりやすく伝える活動を推進していきます。
2018年3月、自民党憲法改正推進本部が、日本国憲法について、自衛隊明記、緊急事態対応、合区解消・地方公共団体、教育充実の4テーマからなる「条文イメージ・たたき台素案」を決定し、憲法改正に関する議論がなされています。
このうち、憲法9条の2による自衛隊明記案は、自衛隊の行動について実効性のある統制を困難ならしめ、立憲主義に違背するおそれがあるとともに、日本国憲法の最も重要な原則の一つである恒久平和主義にも背馳するおそれがあります。
また、当会は、憲法に緊急事態条項(緊急事態において、内閣総理大臣ないし内閣が、国会の審議を経ることなく、法律に代わる緊急政令を出し、財政支出を行えるようにする条項)を新設することは、災害対策・テロ対策等を理由とするものであっても、行政府による濫用の危険性が高く、基本的人権の尊重と権力分立を旨とする立憲主義体制を根底から否定するものであり、認めがたいとして反対してきており、かかる主張を堅持します。
また、憲法改正に進む前に、憲法改正手続法(国民投票法)の複数の問題点を解消する必要もあります。
当会としては、国民の間において十分な議論や理解のないまま憲法改正手続が進むことがないよう、会員や国民・市民に対して、法律家団体として適切な情報提供をするとともに、今後も憲法審査会の審議を含む憲法改正をめぐる議論状況を注視しながら、立憲主義を堅持するという弁護士会の責務を果たしていきます。
2019年9月の台風第15号では千葉県の41の市町村、東京都の島しょ大島町に災害救助法が適用され、翌月の台風第19号では、全国で390を超える多数の区市町村、都内に限っても29の区市町村に災害救助法が適用され、これらは特定非常災害にも指定された大規模な自然災害となりました。被災をされた皆様には謹んでお見舞いを申し上げます。当会では、これまで2011年3月の東日本大震災、2016年4月の熊本地震、2018年7月の西日本豪雨災害における被災者支援をしてきた経験を活かして、今般の災害においても、地元弁護士会とも協力して、被災者向けの相談活動や復興まちづくり支援への協力等、被災者に寄り添う支援活動を積極的に実施します。また、2016年4月から開始された「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン(被災ローン減免制度)」についても、研修を充実させ、当会の登録支援専門家を増やし、弁護士、弁護士会であるからこそ実施できる被災者の生活再建支援に着実に取り組みます。
東日本大震災から丸9年が経過しようとしています。復興が進みつつある一方で、今なお被災者の中には、支援の手が行き届かず、平穏な生活を取り戻せないでいる方が少なからずおられます。当会では、これまで都内避難者への原子力損害賠償やその他法律問題等に関する説明会・相談会の実施、震災法律相談等に関する研修などを実施してきました。また、被災地の子どもたちを東京に招いて法教育を取り入れた学習プログラムを実施し、のびのびと遊び学ぶ機会を提供してきました。当会は、引き続き被災地弁護士会、被災自治体、社会福祉協議会さらにはボランティア団体等と連携しながら、これら被災者が平穏な日常を取り戻すために必要な「災害ケースマネジメント」に積極的に取り組み、支援を継続していきます。
大規模災害時でも弁護士及び弁護士会は被災者等の基本的人権を擁護し社会正義を実現するという使命を有しています。そのためには、大規模災害時でも弁護士及び弁護士会の業務を継続できるための対策や計画を策定しておくことが必須です。当会では、2004年11月に建築家、税理士等他士業との連携により被災者を支援する「災害復興まちづくり支援機構」を設立し、被災者支援に取り組む諸活動を継続する一方、2013年以降は業務継続計画(BCP)を策定し、大規模災害時にも弁護士会としての業務を適切に継続するための仕組みや計画を整えています。その一環として、新潟県弁護士会との災害時共助協定の締結、会員に対するサバイバルカードの作成・配布、定期的な安否確認テスト等の施策を実施しています。今後も引き続き、適切な災害対策について弁護士に周知、情報提供等を行っていくとともに、弁護士会員の業務継続に関する取り組みが定着するよう弁護士会としてなしうる諸施策の検討を進めます。
民事司法は、民事・家事・行政事件手続を中核とし、裁判外紛争解決(ADR)、相対交渉、法律相談等にも広く及ぶもので、人びとの市民生活や経済活動に密接に関わります。こうした人びとの権利を擁護し、法の支配を社会の隅々に行き渡らせるためには、民事司法の機能と司法アクセスを充実させるべく、必要な改革を不断に進めていくことが不可欠です。
こうした民事司法の改革は、1999年に内閣に司法制度改革審議会が設置された以降、司法制度改革の一環として急速に進められました。しかし、2000年代前半に改革の課題が概ね実現すると、その後の動きは沈静化し、新たに生じた諸問題への対処が進まないまま、15年ほどの年月が過ぎています。
このような状況の打開のため、日弁連は、2011年5月の定期総会で採択した「民事司法改革と司法基盤整備の推進に関する決議」に基づき、民事司法改革推進本部を設置し、翌2012年2月に「民事司法改革グランドデザイン」を策定して、「市民をはじめ全ての人々にとってより利用しやすく、頼りがいのある、公正な民事司法」を実現することを目指しています。2014年9月からは、「民事司法改革に関する日弁連・最高裁協議」が行われ、裁判所の基盤整備などで一定の成果を得たほか、民事訴訟法や民事執行法などの法改正を必要とする改革についても、今後の検討事項などが抽出されました。
こうした日弁連の取組みを経て、2018年7月には、日弁連、最高裁及び法務省からなる「民事司法の在り方に関する法曹三者連絡協議会」が立ち上げられ、2019年4月には、「民事司法制度改革推進に関する関係府省庁連絡会議」が発足するなど、再び民事司法改革の機運が高まっています。
当会は、2000年代前半を中心とする先の民事司法改革において、有為な人材を数多く日弁連に送り込んだほか、当会の多くの関連委員会においても、制度の提言などで重要な役割を担ってきました。その民事司法改革の再開の動きがようやく活発となってきた現状において、当会は、再び、この分野において日弁連を牽引する弁護士会として、その役割を果たしていきます。
2018年6月に閣議決定された「未来投資戦略2018」では、民事裁判手続等のIT化に向けた政策が掲げられました。2020年2月からは、高裁所在地の地方裁判所を皮切りに、現行法の下で可能な裁判手続のIT化として、ウェブ会議を活用した争点整理手続の実施が試行される予定であり、同月には法務大臣から法制審議会に対する民事訴訟法等の改正についての諮問もなされる予定です。
このように、民事裁判手続等のIT化の動きは急速に進展しています。裁判手続のIT化は、その利便性を向上させるものとして、日弁連及び弁護士会としても、積極的に受け入れるべきものですが、効率性を追求するあまり、関係者の手続保障を含めた裁判の適正が損なわれないようにしなければなりません。今後、より具体化してくる裁判手続のIT化について、当会としても、適正、迅速かつ経済的な手続が実現するよう、積極的に働きかけていきます。
民事訴訟を利用しやすく事案解明力のあるものとするためには、民事訴訟の当事者が早期に情報・証拠にアクセスし、これらを収集できるようにすることが重要です。そうした認識の下、2018年7月から、日弁連、最高裁及び法務省からなる「民事司法の在り方に関する法曹三者連絡協議会」が立ち上げられ、「民事訴訟における情報・証拠収集制度の充実(専門訴訟への対応等)」が検討課題の1つとされました。同協議会の検討結果が取りまとめられれば、その後は法改正に向けた本格的な動きが始まることが期待されます。
情報・証拠収集手段の拡充は、民事訴訟における証拠偏在の是正や真実発見の促進に資するものですが、反面、個人の私生活上の重大な秘密や営業秘密など、秘匿性の高い情報の扱いへの配慮も必要であり、適切なバランス感覚をもって実現を目指す必要があります。当会としても、日弁連を牽引する心づもりで、情報・証拠収集手段の適切な拡充に向けて意見発信をしていきます。
弁護士と依頼者の間の法的助言を求めるための通信の秘密が民事手続、刑事手続、行政手続等における開示から保護されることは、依頼者が安心して弁護士に法律相談をするために極めて重要であり、社会の法令遵守を支える基盤ともいえるものです。このような弁護士・依頼者の通信秘密の保護は、欧米諸国においては、ほぼ共通する司法制度の原則として確立しています。しかしながら、我が国においては、依頼者については弁護士との通信の秘密が保障されているとは言い難い状況です。2019年に通常国会で成立した新たな課徴金減免制度にかかる独占禁止法の改正法に関して、カルテル調査手続に限定して弁護士・依頼者の通信秘密の保護が公正取引委員会規則及びガイドラインで認められる方向性となりましたが、そのような分野・手続を限定した保護では不十分です。
当会でも、民事手続、刑事手続、行政手続等の各分野において弁護士・依頼者の通信秘密保護制度の確立に向けて尽力していきます。
仲裁は、裁判と並ぶ裁断的紛争解決手続であり、特に国際紛争においては裁判以上に主流となる傾向があります。日本国内の全体的な市場の収縮に伴い、我が国の企業は、その規模の大小に関わらず、国際的な取引や活動にますます積極的になっていますが、そうした取引等から紛争が発生しても、日本が国際仲裁における仲裁地として選択されることは少なく、それが我が国の企業に負担となってきたことは否めません。
日弁連は、2017年2月に「日本における国際仲裁機能を強化することに関する意見書」を採択し、国際仲裁の実施に適した物的施設の整備、仲裁法制の整備、仲裁機関の拡充、仲裁に携わる法律実務家の確保、養成といった物的・人的インフラ整備のための取組みなどを政府に求めました。こうした働きかけを受け、2018年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2018」では、国際仲裁活性化に向けた基盤整備が政府の重要政策とされています。法制の面では、外国弁護士の国際仲裁代理の範囲を拡大し、また、国際商事調停の代理を可能とする外弁法改正案が国会に提出され、仲裁法の更なる改正や国際商事調停に執行力を付与するいわゆるシンガポール条約加入の是非が議論されています。また、物的施設面では、同年4月に設立された一般社団法人日本国際紛争解決センターが、大阪の中之島にある法務総合庁舎を利用した国際仲裁専用の施設の運営を開始しており、同様の施設を東京に設ける計画も進んでいます。東京施設については、当会も地元会の一つとして積極的な支援を検討すべきです。
しかしながら、我が国における国際仲裁の活性化のためには、上記のような法制面や物的施設面だけではなく、仲裁人として、あるいは仲裁事件の当事者の代理人として活躍できる法律実務家の層を厚くすることが必要です。当会は、全国的に見ても、国際法務に携わっている会員や外国法事務弁護士会員が多く、また、国際委員会の活発な活動により、外国の弁護士会との交流も非常に盛んです。当会では、こうした基盤を十分に活かし、国際仲裁を担う人材の育成に力を入れていきます。
民事司法の基本的なインフラである裁判所の基盤整備は、国民の司法アクセスを十全なものとする上で極めて重要です。特に、事件数が増加している家庭裁判所の基盤整備は喫緊の課題です。日弁連は、2014年9月から約1年半にわたり、最高裁との間で「民事司法改革に関する日弁連・最高裁協議」を行い、そこでの基盤整備部会における協議の結果、労働審判実施支部の拡大、裁判所支部における支部長の常駐化、及び裁判官のてん補回数の増加につき、一定の成果を得ました。しかしながら、こうした成果は、日弁連が示していた基盤整備の具体的な提案の一部に過ぎず、今後も粘り強く最高裁に働きかけ続けることが重要です。当会は、引き続き、そうした働きかけに携わる弁護士を日弁連に送り出すとともに、そのバックアップに努めます。
裁判所の基盤整備の問題は、主に地方の弁護士会において切実な問題となっています。しかしながら、当会にとっても、420万人を超える多摩地域の市民の司法アクセスを改善し、地域司法サービスを充実させることは重要です。
そのため、裁判所立川支部本庁化、弁護士会多摩支部本会化については、日弁連にも働きかける等して、早期の実現に向けた取組みを継続するとともに、弁護士会多摩支部の活動が、多摩地域に根差した充実したものになるよう、積極的な支援をしていきます。
当会では、都内各所に法律相談センターを設け、市民の司法アクセスの向上に努めてきましたが、現在、法律相談センターの相談件数は減少傾向にあります。
一方、当会によせられる弁護士に対する苦情は増加の傾向にあり、今後も市民のみなさまが安心して相談できる相談場所として弁護士会の法律相談は欠かせないものとなっています。
当会では、既存の法律相談センターのみならず、自治体やその他団体と連携しての各種イベントでの法律相談の実施、また災害相談やインターネットトラブル相談等の専門性を有する法律相談の実施等、市民のみなさまのニーズに沿ったサービスを充実させることに取り組みます。
2020年3月に30周年を迎えます。2020年9月には仲裁センター30周年記念事業の一環として日弁連全国弁護士会ADRセンター連絡協議会を当会が担当会となって開催することとなっています。当会の仲裁センターは、民間ADR機関ならではの柔軟な手続で、簡易迅速に、公正で満足度の高い紛争解決を実現するとともに、医療、金融、国際家事といった専門性の高い紛争にも対応する仕組みを整備してきました。2019年9月の台風15号、10月の台風19号による災害に伴う紛争については、被災者の利用負担を大幅に軽減する災害時ADRを実施しています。今後も引き続き紛争解決を通じた市民サービス、被災者支援に積極的に取り組んでいきます。
当会はこれまで、公設事務所である東京フロンティア基金法律事務所などから、単位会としては最も多くの弁護士を全国の弁護士過疎地に送り出しており、弁護士過疎・偏在対策に大いに貢献してきました。全国第2位の会員数を擁する当会は、引き続き過疎・偏在対策に取り組み、国民・市民の弁護士に対するアクセス障害解消に努めていく必要があります。
行政事件訴訟、行政不服審査、住民監査請求・住民訴訟等の制度は、国民・住民による行政活動のチェックとして極めて重要なものです。当会はこれまで、そのチェック機能の強化に向けて取り組んできましたが、今後もその取り組みを継続していきます。
裁判員制度の導入を中心とする一連の刑事司法改革を契機として、刑事裁判における当事者主義の徹底が強調されてきました。裁判所は、中立の判断者の立場に徹するとされています。したがって、弁護人の訴訟活動次第で結果が変わる可能性が高まり、弁護人の役割はいっそう重要になっています。
それに伴い、刑事弁護に関する研修や会員の弁護活動をサポートする体制を充実させる必要性も高まっており、弁護士会が果たすべき役割は重要です。
また、一連の刑事司法改革は、取調べの録音・録画の対象事件が一部の事件に限られ、全面証拠開示制度は導入されていないなど、未だ不十分といわざるを得ません。この改革をさらに推し進めるには、刑事手続をめぐる運用状況と問題点についての情報を集約し、具体的な立法事実を示してさらなる法改正を提言する必要があります。この点においても弁護士会が果たすべき役割は極めて重要です。
近年、勾留請求却下率や保釈許可率が高まっています。また、2016年6月に施行された改正刑訴法では、裁量保釈の許否を判断する考慮要素が明確化されました。
しかし、身体拘束をめぐる制度改革及び運用改善は未だ不十分です。特に、否認や黙秘をしている被告人の身体拘束は全般的に長期にわたっています。そのことは、罪を犯していないのに虚偽自白をする動機付けになりかねず、「人質司法」の問題は未だ解決されていないというべきです。
この問題を解決するには、個々の弁護人が粘り強く身体拘束を争う弁護活動をするのみならず、身体拘束の運用を弁護士会が集約して、情報発信していくことが必要です。近時、保釈中の被告人が逃亡したごく一部の事案が広く報じられていますが、弁護士会からは、罪を犯していないのに身体拘束が長期化した事案などについての情報を発信して、身体拘束の運用改善とさらなる制度改革を提言していく必要があります。
2019年6月に施行された改正刑訴法により、裁判員裁判対象事件及び検察独自捜査事件について、取調べの録音・録画が法制化されました。これまでの取調官の裁量による試行的な録音・録画とは異なり、対象事件についての取調べの全過程を録音・録画することを義務付けるものであり、取調官による違法ないし不適正な取調べを抑制する見地から重要な法改正であるといえます。
もっとも、録音・録画が義務付けられている事件は上述した一部の事件に限られていますから、未だ不十分です。違法ないし不適正な取調べがなされるおそれは、あらゆる事件にあるものです。そこで、取調べの録音・録画の対象事件をさらに拡大していくためにも、弁護士会として、引き続き問題事例の集積や情報発信に努め、全ての事件における取調べの全過程の録音・録画の法制化の実現に尽力します。
2005年11月に施行された改正刑訴法によって公判前整理手続が導入され、被告人側に証拠開示請求権が認められました。さらに、2016年12月に施行された改正刑訴法によって、証拠一覧表交付請求権も認められました。
しかし、これらの請求権が認められるのは公判前整理手続又は期日間整理手続に付されている事件に限られ、また、公判前整理手続に付された事件においても、全ての証拠が開示されるわけではありません。刑事裁判においては、冤罪はあってはならないことですが、過去の再審無罪事件の教訓からも、冤罪防止のためには捜査機関が作成又は入手した証拠を広く被告人側に開示することの必要性は明らかです。
そこで、証拠開示制度のいっそう拡充に向けて、現状の証拠開示制度の問題点の分析とさらなる法改正の提言を進めていきます。
2009年に裁判員制度が導入されて10年が経過しました。この10年間を通じて概ね安定した運用が定着してきたと思われますが、同時に課題も明らかになっています。
裁判員制度は、「広く一般の国民が、裁判官とともに責任を分担しつつ協働し、裁判内容の決定に主体的、実質的に関与することができる新たな制度」として導入されたものです(2001年6月12日付け「司法制度改革審議会意見書」)。その趣旨に鑑みれば、裁判員に選任された市民が、形式的にではなく「主体的、実質的に」審理と評議に関与しているのかが検証されなければなりません。これまでも当会では裁判員センターが中心となって裁判員裁判についての情報集約を行ってきましたが、その取組みを今後も継続し、裁判員制度をより良いものとしていく提言をしていく必要があります。
また、これまでの裁判員経験者のアンケートによると、残念ながら、弁護人の訴訟活動がわかりやすかったとの回答は、検察官の訴訟活動がわかりやすかったとの回答を下回り続けています。当会には、我が国における刑事弁護をリードしている会員が複数います。それらの会員を中心に、裁判員裁判に的確に対応できる態勢を整えるため、研修をいっそう充実させます。
2005年に公判前整理手続の運用が始まってから現在まで、法曹三者で公判前整理手続の運用をめぐって様々な議論が積み重ねられてきました。
裁判所関係者からは、しばしば公判前整理手続が長期化している旨の指摘がなされています。無用な長期化を避ける必要があるのは確かですが、十分な証拠開示を受けることなく拙速に公判前整理手続が終結してしまうようなことがあれば、被告人の防御権が著しく害されます。公判前整理手続に的確に対応するためには、弁護人が十分な技量をもっていることが極めて重要です。この点からも、刑事の分野における研修のいっそうの充実を図ります。
以上に述べてきたこと以外にも、近年順次施行されている改正刑訴法では、刑事免責制度、協議・合意制度(いわゆる司法取引制度)などの新たな制度が導入されています。めまぐるしく変わり続けている近時の刑事司法制度とその運用に的確に対応するために、刑事弁護についての専門性の高い会員のすそ野を広げるとともに、国選弁護への対応態勢の充実化も喫緊の課題であると考えられます。
死刑制度に関しては会内にも様々な意見があり、日弁連では2016年10月7日の第59回人権擁護大会で「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」が採択されているところです。、冤罪で死刑となり、執行されてしまえば、二度と取り返しがつきません。他方で、犯罪被害者に寄り添うのも弁護士の責務です。それらの点も踏まえて、当会においても、死刑制度を含む刑罰制度全体に関する議論を深め、国民の議論を喚起していかなければなりません。
冤罪は、絶対にあってはならない悲劇です。東京電力女性社員殺人事件においては、当会会員が中心となって再審無罪判決に至り、雪冤を果たすことができたことは、周知のとおりです。このように再審手続が冤罪被害者救済の最後の砦であることを踏まえて、再審弁護団を支援する体制を整えるとともに、再審手続における証拠開示制度の整備など、再審手続がその機能を十分に果たしていくための法改正についても提言をしていく必要があります。
刑事裁判における弁護人の役割の重要性が増しており、国選弁護を担う弁護士も刑事裁判手続全般について十分な知識をもつことが必要です。めまぐるしく変わる制度と運用に的確に対応し、被疑者・被告人の利益を擁護するに足りる技量と経験をもつ国選弁護の担い手をさらに広げていくためには、国選弁護費用の適正化も重要な課題です。刑事弁護の充実、専門化のためにも、日弁連とともに、引き続き、国選弁護費用の適正化についての提言をしていきます。
弁護士が人権を擁護し社会正義を実現するためには、国家権力による制約を受けず、自由かつ独立した立場になければなりません。そのための弁護士自治は、弁護士の使命を果たす上で根幹の制度といえます。
弁護士自治を維持するためには、会員が弁護士会の活動に参加し、これを支える必要があります。そこで、弁護士会の求心力を高め、委員会活動を活性化する方法として、会務参加へのハードルを低くすることや会務参加へのインセンティブを高めることが必要と考えています。特に、若手会員が増加する中、若手が会務に参加しやすい環境を整備していきます。
また、弁護士に対する市民の信頼を得ることは、弁護士自治の維持のために必須です。不祥事問題には毅然とした態度で臨み、非弁の取締りも強化していきます。綱紀・懲戒手続の効率化、事前公表制度による被害拡大の防止、市民相談窓口の充実等も図っていきます。
様々な考え方や生活スタイルを持つ会員に、広く委員会に参加をしてもらうために、スカイプ・フォー・ビジネス(音声チャット・ビデオ会議等)による会議参加が既に導入されていますが、今後も、委員会活動に伴う会員の移動時間の負担等を軽減し、公益活動認定を得られやすくするための改革をさらに進めていきたいと考えています。
あわせて、委員会活動に参加するインセンティブを高めるための新たな制度の導入を検討したいと思います。インセンティブの内容等は、広く意見を募り、多くの会員に満足のいく制度を構築し、委員会活動の活性化に繋げたいと考えています。
現在、60期以降の会員は、当会の会員の半数を超えており、多くの若手会員が積極的な会務参加をしていくことが、今後の弁護士自治を維持していくために不可欠です。
2018年7月に、弁護士登録10年以内の若手会員のみで構成される「NIBEN若手フォーラム」が設置され、同フォーラムでは、明るく、楽しく、自由にものが言える雰囲気のもと、若手会員間の相互研鑽と親睦を図りながら、若手会員の業務拡大、研修・勉強会企画、悩み相談、他の委員会活動や公益活動に参加しやすくなるような取組みをしています。
同フォーラムを支援することにより、若手会員の会務参加の入り口として機能させるとともに、同フォーラムと各委員会との連携を図ることにより、当会において若手会員の活動の場が広がるようにしていきます。
綱紀・懲戒制度は弁護士自治の中核をなす制度です。綱紀懲戒事案の中には、事実関係が複雑であったり、微妙な価値判断が求められる事案など、慎重な審理が求められる事案がある一方、一見して明らかに濫用的な申立事案もあります。後者については、簡易手続が設けられましたが、引き続き手続全体の効率化を図り、審理の充実と迅速を促進していきます。
また、近時、非弁業者の活動が巧妙化しているため、会員に対する研修・広報活動、非弁業者に対する警告・告発等を通じて、非弁提携の阻止を推進します。
市民に対しては、会員への苦情について市民相談窓口の充実に努める一方、被害拡大を防止するために事前公表制度を活用していきます。
会員への支援策として、倫理研修の実施のみならず、事前照会制度・倫理相談員あっせん制度によるサポート、メンタルヘルス対策等を、引き続き行っていきます。
当会は2017年3月に第三次男女共同参画基本計画を決議し、①会の政策・方針決定過程への女性会員の参加の推進、②IT化等による委員会活動の効率化及び活性化、③ワーク・ライフ・バランスのための制度の新設・拡充、④女性会員の業務分野拡大・開発、⑤業務における性別や性的志向を理由とする差別の是正、の各項目について、第二次基本計画下での取り組みの検証のほか、第三次基本計画における具体的な目標・アクションを定め、当会における男女共同参画の推進を図っています。
第三次基本計画に基づき、理事者や常議員、正副委員長の女性割合の増加、ITを利用した委員会への参加の促進、キャリアプランやロールモデルの提示や出産・育児へのサポート、社外役員候補者名簿の活用、「性別による差別的取扱等の禁止に関する規則」が定める苦情申立制度の活用等、具体的な施策を進めてゆきます。
当会では、理事者における女性会員の占める割合を30%以上とするため、2014年10月に規則改正を行い、副会長6名のうち2名について、女性候補者が優先的に当選とするクォータ制を導入し、2016年度以降継続して2名以上の女性理事者(会長・副会長)が就任しています。
また、2014年度から、当会会員が所属する事務所の中から、効果的・先駆的なワーク・ライフ・バランス推進策を実施している法律事務所を表彰するファミリー・フレンドリー・アワードを毎年実施しているほか、メンターとの昼食会を開催し、若手会員にキャリアプランを提示するといった活動も行っています。
今後も当会のこれら先駆的取組みを継続します。
IT化による委員会参加を促進するため、当会では機密性の高い一部の委員会を除き、原則として「スカイプ・フォー・ビジネス」を利用した委員会への参加を可能としました。これにより、育児中等の理由により、委員会活動への参加時間を確保することが難しい場合でも、自宅や事務所から委員会に参加することができるようになっています。今後も、設備を充実させるなどして、委員会活動の活性化を図ってゆきます。
法の支配を社会の隅々に行きわたらせるためには、これまでの業務にだけこだわるのではなく、弁護士が様々な分野において活躍する必要があります。対象も市民向けの法的サービスだけでなく、企業、特に中小企業や、行政などにも目を向ける必要があります。また、その活躍の方法も外部から法的サービスを提供するだけでなく、組織の内部に入って法律専門家としての役割を果たすことも必要です。これまで企業内弁護士のほか、地方自治体などの行政機関に任期付公務員として活躍している弁護士が当会にも多数いますが、国会議員・地方議会議員の政策秘書などへも広めてゆくことが有用です。さらに、活躍の範囲も社会の国際化に伴い、国内だけでなく海外へも目を向ける必要があります。この活躍の担い手は若手だけでなく、広く、中堅やベテランの弁護士も行うことができるものです。また、弁護士の活用がさらに図られるために、弁護士費用保険のいっそうの拡大・普及が必要です。当会では弁護士業務センターなどが中心となって新たな活動領域での業務拡大を図るべく活動をしていますが、今後はさらに活動を活発化させてゆくことが必要です。
我が国には約359万の企業(2016年。個人事業主も含む。)があり、そのうちの約99%を中小企業が占め、雇用の約7割を担っております。東京都についてみると約42万の企業があります(同上)。企業数としては多いですが、大企業のように法務部門があることは少なく、また、法的なニーズに対して弁護士へのアクセスは十分とは言えない状況です。当会においても、弁護士業務センターが企業連携部会を設け、金融機関などと連携しながら中小企業のニーズを掘り起こし、また、事業承継研究会や倒産法研究会などが各分野について研究も行っていますが、必ずしも中小企業の法的ニーズに応えきれているとは言えない状況です。特に近年、中小企業の経営者の年齢が上昇し、事業承継の問題が社会的にもクローズアップされていることにも鑑み、当会としても研修を充実させるなどして、事業承継も含めた中小企業の抱えるさまざまな法的ニーズに対応できる弁護士を養成するとともに、そのようなニーズを掘り起こすための広報にも力を入れていきます。
日本組織内弁護士協会(JILA)によると2019年6月時点で企業内弁護士は、全国で2418名、当会においても579名の企業内弁護士がおり、当会会員の約1割が企業内弁護士です。企業内弁護士や自治体・官庁の任期付公務員等の組織内弁護士は、法の支配を企業や行政などの組織に行き渡らせるためにも重要な存在となっており、今後も増加することが予想されます。当会としては、組織の内部と外部の弁護士が相互に補完しあい、協力して社会の隅々まで法の支配を広げていくために、継続的に意見交換を行うなどして今後も更に相互理解と協力を進めていきます。また、組織内弁護士が研修や委員会への出席が容易になるような方策も検討します。
東証一部に上場している会社のうち、2名以上の独立社外取締役を選任している会社は2944社に上っており、年々増加しています(2019年8月1日東証資料)。正確な資料はありませんが、700名以上が弁護士であるとも言われており、社外監査役も含めると相当な数の弁護士が上場企業の社外役員となっています。企業のガバナンスやコンプライアンスの向上のためにも、今後もますますこの分野での弁護士のニーズは高まるものと考えられます。当会ではすでに「社外役員候補者名簿」を作成し一般に公開していますが、さらに研修を充実させるなどして適任の社外役員候補を増やすとともに、広報にも力を入れて、企業とマッチングさせていけるよう努めます。また、近年、企業等における不祥事の増加に伴い、弁護士が第三者委員会のメンバーとして選任される機会も増えています。第三者委員会がその任を適切に果たしていけるよう、十分な知識と能力を備えたメンバーの育成にも力を入れます。
近年、自治体には高度化・複雑化する様々な法的課題に対応する力が求められているところ、法律の専門家の団体である弁護士会との連携がこれまで以上に必要になってきています。既に各委員会において自治体との連携が行われていますが、これを一層強化していくとともに、自治体の広範な法的需要に対応できる弁護士を養成していく必要があると考えています。
また、全国各地の自治体で弁護士を任期付職員等として採用する動きが拡大していますが、現在は十分な応募者がいない状況です。弁護士が自治体の内部に入って活躍することは法の支配を身近な地域の行政内部までいきわたらせることにつながるものであり、より多くの採用に向けて、広報活動を行うなど積極的な支援をしていく必要があると考えています。
現在の弁護士の活動は、司法分野のみにとどまることなく、国会議員・地方議会議員となったり、その政策担当秘書となる、政府の審議会・委員会の委員等として立法過程に関与する、日弁連や弁護士会が立法・法改正の際にパブリックコメント等に意見を提出する、弁護士政治連盟の活動を通じて政党・国会議員等との意見交換や要請を行うなど、様々な形で立法活動に関与するようになっています。弁護士が日常業務で直面する社会的課題を解決するためには、弁護士会が積極的に立法活動に関わることが重要であり、多くの会員にその重要性を周知して関与の機会を増やしたいと考えています。
我が国の少子高齢化に伴い、国内市場が縮小してゆくことが予想され、その対応策として政府も海外市場への進出を推進しています。大企業のみならず中小企業も海外進出や海外取引の拡大を図り、それに伴い法的なトラブルの増加も予想されます。当会では、台北律師公會やシンガポール弁護士会と相互の弁護士を紹介する制度を立ち上げるなど、当会の弁護士が海外においても法的支援ができる環境を整えてきました。かかる制度が有効に機能し実際に海外関係の案件での支援を実施することができるよう、今後も支援していきます。また、ソウル弁護士会等、既に友好協定を締結している海外の弁護士会とも同様の制度を構築し、支援態勢の更なる拡大を図ることも視野に入れて、セミナーや人材育成・交流などにより当会の弁護士の実力向上を図ります。また、2020年の東京オリンピック・パラリンピック、観光立国化や海外労働者の受け入れの推進等に伴い多くの外国人が来日することが予想され、それに伴い、国内においても渉外的要素のある法的問題を取り扱うことが増加することが予想されます。それらの問題について適切に対応できる人材を育成していくことも重要な課題です。
当会では2017年度に、それまでの法律相談センター運営委員会から独立する形でリーガル・アクセス・センター(LAC)運営委員会を立ち上げました。
昨今、各保険会社で新商品の開発が進み、LACが取扱う保険は多様なものになってきており、担当弁護士には一定の専門性が要求されています。また、担当弁護士の増加に伴い、弁護士報酬の過大請求等がされないよう監督する必要性も増しています。
当会としては、担当弁護士の研修義務付けや事件報告の徹底を図り、今後も依頼者や保険会社に信頼される弁護士紹介制度の運営に努めていきます。
会員の業務支援は弁護士会の最も重要な役割の1つです。当会には合計5522人にも上る会員が属していますが(2019年10月現在)、期別に見ると30期代までが16%、40期代が10%、50期代が21%、60期代が46%、70期代が8%と多様な世代を抱えています。女性会員の占める割合も21%に上ります。このように多様な属性の会員の多様なニーズに応えるきめ細かな業務支援を行っていきます。
当会では、研修センターを中心に、新規登録弁護士研修、弁護士倫理研修、法律実務研修、法律研究会の協力による研修、日本弁理士会との相互研修などの研修が行われていますが、ますます複雑化する法律実務、それに伴う弁護士への期待に応えるためには、研修の充実及び強化が不可欠です。弁護士倫理研修では、職務基本規程についての講義・演習に留まらず、セクハラ、情報セキュリティ、マネーロンダリング等についての研修も充実させつつあり、継続研修等の法律実務研修については一部YouTubeを用いた受講も可能なように試行されていますが、さらに社会からの期待、会員のニーズに合わせた研修の充実強化を進めます。
当会では、毎年200名程度の新入会員を受け入れていますが、就業先の法律事務所や企業などではその研修体制がまちまちです。そこで、それまでにあった新人研修の制度をさらに充実し研修の成果を上げるとともに、新人相互や当会へのつながりを強めるため、一クラス約20名の少人数の単位で研修を行うクラス別研修の制度を平成26年度の66期司法修習終了者から実施しています。今後もかかる制度をより充実したものとし、当会の若手が実力をつけ、仲間とともに充実した弁護士人生を送れるようにサポートしていきます。
当会には、登録15年目までの若手会員向けに「二弁メンター制度」(先輩弁護士がメンターとなり、メンティーとなる若手弁護士に対して、個別相談や、昼食会などのイベントでの情報提供・懇談を通じて、支援を行う制度)を設けています。現在では、弁護士の働き方はさまざまであり、法律事務所で勤務するだけでなく、企業や省庁・自治体で勤務したり、大学で学んだり、起業する弁護士もいます。子育てや介護をしながら業務することはごく普通です。そのような中でも、先輩弁護士の経験や考え方を学ぶことは、自身のクォリティー・オブ・ライフ(QOL)を高め、特に、現在や将来に不安を抱えている若手会員に大いに参考になるものと考えています。次年度は、若手会員の支援策のひとつとして、この「二弁メンター制度」をより多くの会員に知ってもらい、利用を促したいと考えています。新規登録会員については、全員にメンターを付ける等の支援も検討したいと考えています。
当会の正会員全体に占める30期代より上の会員の割合は16%です(2019年10月現在)。そして、当会において1人で法律事務所を経営している会員の割合は21.1%です(2018年6月現在)。この統計から、今後、多くの1人事務所において事務所ないし業務の承継が大きな問題となっていくことが予想されます。当会には、高齢会員の業務を援助し、事務所承継を促進する制度として、協力弁護士制度がありますが、現状では十分に活用されていません。弁護士が市民や企業に継続的に良質な法的サービスを提供し続けるためには、当会としても事務所承継を円滑に行うための各種施策を講じていく必要があります。
毎年、数多くの弁護士業務妨害事件が起きています。過去には弁護士が殺害される不幸な事件もありました。法に基づく紛争解決を目指す弁護士に対して違法・不当な手段で業務を妨害することは、弁護士制度、ひいては法の支配に対する重大な挑戦であり、対象弁護士自身に任せるのではなく、弁護士会が支援し、組織として対処する必要があります。当会は、弁護士業務の安全と安心を支えるために、妨害を受けている会員弁護士からの相談や事件受任等の業務妨害に対する支援体制を整え、弁護士業務妨害に対して毅然と対処します。
司法改革により、「点」(司法試験)のみによる選抜でなく法科大学院を中核とした「プロセス」としての新しい法曹養成制度が構築されました。しかしながら、その後、様々な要因により、新しい法曹養成制度をめぐっては困難な状況が続いており、法曹志望者が減少する事態となっています。2015年6月、政府の法曹養成制度改革推進会議は、弁護士会を含む関係各所に対して、法曹有資格者の活動領域拡大に向けた取組を継続すること、当面、毎年1500人が輩出されるよう必要な取組を進めること、法科大学院において修了者が司法試験に概ね7割以上合格できるよう充実した教育を目指すことなどを決定し、この決定に基づいて、法科大学院制度の改革をはじめ、法改正も含めて種々の方策が講じられていますが、その行く末・効果は明確ではありません。
2019年6月、「法科大学院の教育と司法試験等との連携等に関する法律等の一部を改正する法律」が成立しました。この法改正により、まず、法学部等に「連携法曹基礎課程」(法曹コース)を設けてこれと法科大学院教育とを連携させ、とりわけ、法曹コースで優秀な成績を修めた者について大学3年終了時に早期卒業を認めて法科大学院の既修者コース(2年の課程)に進学することができる制度を整備することで、大学(学部)入学後5年間で法科大学院を修了することが可能になります。また、司法試験受験資格の例外として、法科大学院を設置する大学の学長の認定を受けた者は、「法科大学院修了見込み」の資格で、在学中に司法試験を受験することも可能となります。さらに、この法改正に基づき、司法修習も4月開始に変更されることが見込まれており、法科大学院在学中に司法試験に合格した者は、法科大学院修了後直ちに司法修習を開始することになります。
在学中受験をする法科大学院生が司法試験を受験することになるのは2023年からになります。現在、法曹コースの認定基準や教育内容、司法試験の実施時期、司法修習のスケジュール等の詳細について検討が開始行われています。法曹コースとの効果的な連携ができるか、在学中の司法試験受験を認めることで法科大学院教育どのような影響が及ぶかなどが問題となります。
また、より多様な人材が法曹界に集まることが、法曹全体の活力につながると考えられますので、法科大学院における未修者教育をさらに充実させる必要もあります。
これら制度変革が法科大学院の理念に沿いかつ法曹志望者の増加につながるよう注意深く見守り、必要に応じて意見を述べていきます。
司法修習生の修習期間中に給与又は修習給付金の支給を受けられなかった会員(新65期から70期までの約9700人。いわゆる「谷間世代」。)の経済的負担を軽減するため、日弁連は2019年3月1日開催の臨時総会において、谷間世代の各会員に20万円を給付する制度を創設しました。当会では、さらに、谷間世代の会員が納付した会館特別会費相当額を支援金として支給することとしました。
後進が経済的にも安心して学べる環境を整備することは、法曹志望者を増やし質量ともに充実した法曹を生み出すために極めて重要と考えます。そのため、修習給付金のあり方も含め、今後も引き続き日弁連及び弁護士会で検討を続けます。
日弁連は、2012年3月15日、「法曹人口政策に関する提言」を公表し、司法試験合格者数をまず1500人にまで減員し、更なる減員については法曹養成制度の成熟度や現実の法的需要、問題点の改善状況を検証しつつ対処していくべきであるとの意見を公表しました。2015年6月政府の法曹養成制度改革推進会議は、司法試験合格者数について、毎年「1500人程度は輩出されるよう、必要な取組を進め、更にはこれにとどまることなく、関係者各々が最善を尽くし、社会の法的需要に応えるために、今後もより多くの質の高い法曹が輩出され、活躍する状況になることを目指すべきである。」としました。これを受けて、日弁連は2016年3月11日の臨時総会において、合格者集をまず1500人にすべきである旨の決議を採択しました。その後、2016年から2019年の司法試験では毎年1500人台の合格者数となっています。以前問題とされたいわゆる「就職難」問題は解消されたといわれていますが、法曹人口問題(合格者数問題)については、更なる減員を求める意見、反対に増員を求める意見があります。この問題に関しては、法曹養成制度改革の帰趨及び法曹志望者の状況、弁護士の就職状況及び就業条件、弁護士の活動領域の拡大をめぐる状況等も踏まえ、いかにして質を維持しながら社会のニーズに合った法曹を輩出するか、引き続き十分に検証・検討し、議論していきます。
弁護士人口の増加に伴って、新人弁護士に対して、従来のような長期間の修習や弁護士事務所における充実したOJTを維持することは次第に困難になってきでいます。他方で、社会の複雑化や弁護士の活動領域の拡大に伴って、専門領域をもった弁護士への法的ニーズはますます高まってきています。
そのため、弁護士の最低限のスキル確保のための基礎的な研修と業務の拡大に資する専門的・先端的な研修の両方が必要とされています。
弁護士法72条によって法律業務の独占が認められている弁護士が、自ら研鎖を行うのは当然ですが、弁護士会としても、会員が研績に努められるように研修に力を入れていく必要があります。
現在、当会の研修センターでは、弁護士の最低限のスキルの確保のための「基礎・一般研修」と、時事的・先端分野の「先端・応用研修」の2種類の研修を用意し、この2つを車の両輪と位置付けて、「研修マップ」を作成して、カリキュラムを整理する取組をしており、これにより、より目的意識の明確な充実した研修が受けられるような体制整備に取り組んでいます。
今後はさらにこれを充実させ、倫理研修やクラス別研修の強化等を通じた基礎的研修の充実を図る一方、日弁連、他会や法科大学院等の外部との連携により、より専門的な知識やスキル等を身につけられるような、幅広くかつ深みのある研修プログラムを提供できるよう取り組みたいと考えています。
弁護士の働き方の多様化、育児や介護等に対応できるよう、必修の研修を含め、研修の開催曜日や開催時刻の工夫やeラーニングやDVD等の活用による研修の受けやすさを追求します。miNiben、会員サービスサイトなどによる適時な研修の案内と過去の研修アーカイブの充実などによる研修機会の複数化、自由化などを進めていきたいと考えています。
せっかく研修を受講して、専門的な知識、スキルを身につけても、それを求めている依頼者と巡り会わなければ宝の持ち腐れになってしまいます。そこで、当会のホームページにおける弁護士検索結果に研修の履修履歴を反映させるなどして、弁護士に依頼しようとする方に当該弁護士のスキルや関心領域に関する情報を提供するとともに、専門的・先端的な研修を受講することが業務開拓につながるような方策も検討していきたいと思います。
対外的広報活動を通じて、市民や企業の皆様に、法廷だけではない当会及び当会所属の弁護士の魅力ある活動を知ってもらうことは、弁護士の社会的役割に対する理解を深め、業務の拡大に資するとともに、弁護士を目指す後進を増やす意味でも重要な役割を有しています。当会では、継続的にホームページのリニューアルをしていますが、アクセスを増やすためには、常に新たな魅力的なコンテンツを継続して提供していくことが重要です。委員会や個々の弁護士の魅力ある活動に関する情報収集を継続的に行って、ホームページを含めた各種媒体を活用して情報発信を行っていきます。また、潜在的な依頼者が、ホームページなどを通じて、必要な分野に関する専門性などを持った適切な弁護士にたどり着ける仕組みを構築することを検討します。
対内的広報活動も、会員に対するサービスの充実、会務参加の動機付けのためには重要な役割を担っています。さまざまな分野で活躍する新たな弁護士像を示すことでさらなる業務分野の拡大を目指すこと、また、ワーク・ライフ・バランスに配慮した業務形態など多様な働き方を示すことで、弁護士のQOLの向上を目指すこと、弁護士会活動の魅力などを発信して会務活動を活性化することなどを目指します。
将来に向けて、なるべく紙媒体に頼らない会員の情報伝達方法の確立をめざし二弁アプリmiNiBenなどアクセスしやすい媒体を積極的に活用して、会員に対する情報発信に注力します。
東京フロンティア基金法律事務所は、弁護士過疎解消のための地方赴任弁護士養成と公益事件(経済的理由等から弁護士への依頼が困難な事件)の受任を目的に、全国で最初の都市型公設事務所として二弁が他会にさきがけて設立した事務所であり、我が国の都市型公設事務所の中で最も多くの弁護士を弁護士過疎地に送り出すなど、弁護士の偏在・過疎対策及び市民の司法アクセス障害を改善する役割を果たす点において、大いに貢献してきました。
他方で、東京フロンティア基金法律事務所は、所長弁護士をはじめとする所属弁護士や公設事務所運営支援等委員会の必死の努力にもかかわらず、四谷法律事務所センターの法律相談件数の減少等の影響もあって収支が悪化しており、当会の財政的負担が増大しています。
この東京フロンティア基金法律事務所の経営問題は深刻な問題であり、2019年3月19日付ワーキンググループによる答申を踏まえて、次年度も引き続き、会員に対して適切に情報開示するとともに広く会員から意見を求め、対応に努めます。
当会では、2011年より新人・若手弁護士支援のための施設としてはなさき記念館を中野区野方に開設し、これまで多くの弁護士が巣立っていきました。2019年4月からは、これまでの若手・新人弁護士だけではなく、登録10年以内の弁護士や出産・介護等を経て再登録する弁護士にも利用対象を拡大しました。
一方、現在は、新人弁護士の就職状況は改善され、入居希望者も減少しつつあります。
そこで、将来のはなさき記念館の活用方法について、会員のみなさまと意見交換を図りながら、遺贈の趣旨も踏まえ、今後の対応について検討していきます。
家事事件は、民事・刑事事件に比べ、増加又は高止まりの傾向にあり、複雑困難な事案も増加しています。他方、ここ数年、人事訴訟法、民法(相続)、民事執行法等で家事関係の重要な法改正が相次ぎ、さらには、所有者不明土地問題、親子法制、親権等で法改正に向けた審議や議論が進行しています。当会としては、本年度発足した家事法制に関する委員会を中心に、家事法制への対応強化、会員への家事関係の情報共有を積極的に行っていきます。
2001年の司法制度改革審議会意見書は、判事の給源の多元性を実質化するとともに、特例判事補制度の解消等のための判事の大幅増員に対応できるよう、弁護士任官を強力に推進する必要があると提言していますが、今なお実現はほど遠い状況です。弁護士任官は、国民が求める多様で豊かな知識、経験を備えた判事を確保する上で重要な意義を担うものであり、より積極的に活用される必要があります。そのための方策を日弁連とも連携しながら引き続き検討していきます。
当会は、個人を尊重する民主主義社会の将来を担う子どもたちに法の考え方の理解を深めてもらうために、教育関係者と協力・連携しながら、学校に弁護士を派遣するデリバリー学習会、弁護士会館に子どもを招いて法教育企画を行うジュニア・ロースクール、さらに知憲活動、裁判傍聴などの活動を積極的に行っており、参加する子どもや生徒の数も年々増えています。これらの活動は、市民と弁護士会をつなぐものとして、大変有意義なものであり、今後も充実した活動を継続していきます。また、それ以外にも企業や団体向けの講師紹介制度が積極的に活用されるように努めます。
個人情報保護を含むデータを巡るさまざまな問題や事件が日々、報道されています。また、政府の情報公開・公文書管理に関しても、財務省における公文書の改ざんや内閣府における不透明な文書の廃棄など重大な問題が生じています。当会では、情報公開・個人情報保護委員会を中心に、2018年6月には、通信の秘密を巡り「政府による海賊版サイトへの緊急対策を受けての会長声明」を発出し、関弁連のシンポジウム「未来への記録――自治体の公文書管理の現場から」を成功させるなど、最先端の取り組みを続けており、引き続きこの問題に高い関心をもって対応していきます。
当会の会員数の増加や活動領域の拡大に伴い、当会の運営のあり方は重要な問題となっています。当会の日々の活動を支える事務局職員(2019年12月1日現在、正職員56名、嘱託職員13名、パート・アルバイト・派遣職員19名)がやりがいを持って意欲的に、そして明るく楽しく職務を行うことができるように、事務局体制や職務内容について検討します。職員のワーク・ライフ・バランスを考える必要もあります。有能な嘱託弁護士(2019年12月1日現在38名)を効果的に配置することも必要です。
また、当会が弁護士自治の下に活動する基盤となる財政については、当会の活動や会員のために必要な支出を積極的かつ機動的に行うとともに、当会が将来に向けて安定的に活動できるための財務的基盤を考える必要があります。当会は2019年4月から会員の一般会費を2000円減額し、谷間世代に対して納付済みの会館特別会費を返還するという経済的支援策を実施していますが、引き続き収入と支出や繰越金の状況を踏まえつつ、会員の会費負担のあり方を検討し、会費収入を最大限に活かせるような会務運営を行っていきます。
現在、弁護士会館の20年目の大規模修繕が実施中ですが、2020年5月から8月にかけて、8階から10階の当会共用部分及び専用使用部分の大規模修繕や改修工事等が実施されます。工事により会館の寿命が伸びるとともに、8階の会員控室、9階の受付・事務局スペースのレイアウト変更や、10階会議室のグレードアップ等が行われ、使い勝手が向上することが期待されます。工事期間中は、会議室の利用が制限されるなど不便が生じますが、委員会等の会務への影響が最小限になるよう十分な配慮をします。また、会館内でPCやタブレット等のデジタル機器を快適に利用できるよう、電源・ネット環境、セキュリティ等のインフラ拡充にも力を入れ、当会会員にとって使いやすい会館を目指します。
当会では、2018年度から、会務のデジタル化、ペーパーレス化を推進しています。これまで、「miNiBen」アプリの開発、会務へのSkype参加、委員会資料をはじめとする各種資料のペーパレス化が順次実施されました。次年度も会員の利便性向上、多様な会員に対する支援、経費の削減、環境への配慮、また裁判のIT化が迫っていること等も踏まえて、引き続き会務のデジタル化・ペーパーレス化を推進します。もっとも、急速なデジタル化・ペーパーレス化については、会員から、戸惑いの声や、かえって不便となった、中途半端で使いづらい等などの不満の声も聞かれます。次年度は、このような会員の声も踏まえて、これまで実施された会務のデジタル化・ペーパーレス化についてハード、ソフトの両面から再検証し、会員にとって本当に利用しやすい仕組みになるよう検討を進めます。
当会役員選挙や日弁連会長選挙における当会会員の投票率は、残念ながら低い水準にとどまっています。郵便投票制度の利用者数が年々増えており、郵便投票の開票作業の効率化のための選挙会規の改正(選挙期日の投票時間内の封筒の開封及び投票箱への投入の実施)がなされましたが、会員が選挙に積極的に参加することによって多くの会員の意思が当会の活動に反映されるような制度の構築と運用について検討を行いたいと思います。
会員は、互助会運営委員会やNIBEN若手フォーラムが企画・主催する行事に参加することにより、所属事務所等の枠を超えた交流を図ることができます。こうした交流は、会員の絆を深めることはもちろん、会員が日々の業務を進める上で必要となる知識・経験の共有にもつながり得るものであり、ひいては弁護士会の求心力の向上に資するものですので、引き続きこうした交流の場を提供していきます。
この10年を振り返ると、当会の新規入会会員数は東京三会の中で最も少ない状況になっています。当会の人権擁護、法の支配、会員サービス、弁護士自治等の活動を充実かつ継続的に実施し、また当会の財政を安定させるためには、当会の将来を担う次世代メンバーをできるだけ多く確保し、育成しなければなりません。このような観点から、2019年度、新規会員獲得を目的とした「二弁の未来プロジェクトチーム」が発足し、司法修習生向け広報チラシの製作・配布や個別説明会の開催などが行われました。引き続き次年度も、司法修習生をはじめとする当会への入会を検討する方々に、会員の多様性やそれに応じた当会の魅力的な支援策を広くかつ積極的に広報し、新規会員の獲得増に努めます。また、現状の会員支援策を検証して、利用が低調なものについては使いやすいよう改め、新たな支援策についても検討していきます。
当会は、会員数全国第二の会であり、日弁連や関東弁護士会連合会の会務においても多くの会員が活躍しています。もっとも、分野によっては、当会の委員会等の活動が必ずしも日弁連等の活動とリンクしていないとの批判もあります。日弁連等への委員の推薦や、日弁連等との緊密な情報共有を通じて、これまで以上に有機的な連携をはかっていきます。
また、東京弁護士会及び第一東京弁護士会との連携は、東京地家裁、東京地検をはじめ在京関係諸機関との関係の維持発展のために重要であり、引き続き健全な関係を構築できるよう意思疎通をはかります。
日弁連では、依頼者の本人特定事項の確認及び記録保存等に関する規程及び同規則(以下「本規程等」といいます。)を改正し、依頼者の本人特定事項の確認及び記録保存等の履行状況の報告を義務化しました。これは、FATF(Financial Action Task Force=金融活動作業部会)による国際的なマネーロンダリング対策の一環としての勧告に対する対応として措置されたものです。弁護士会による会員の履行状況の正確な把握、及び履行が不十分な会員に対する指導が不十分であると判断された場合、弁護士はマネーロンダリング等への対策に不熱心であるとみなされ、法令等により、弁護士が履行すべき義務の内容や履行状況の監督体制の見直しを迫られ、疑わしい取引の報告義務(いわゆるゲートキーパー問題)など弁護士の職の根幹に関わる制度の導入が議論されるおそれがあり、弁護士自治にも深刻な悪影響を及ぼしかねません。
こうした問題意識を背景に、当会でも、会員による義務履行状況の報告と、履行が不十分な会員に対する指導を徹底していく必要があり、引き続き会員が適切に義務を履行できるよう、情報提供や支援等に努めます。2019年に実施されたFATF相互審査の結果が次年度公表されます。その結果を注視し、日弁連とも連携して、適切に対応していきます。