弁護士の使命を全うしよう

ご挨拶

私は、この度、2024年度(令和6年度)第二東京弁護士会会長選挙に立候補しました。簡単ではありますが、以下に、立候補に当っての所信を述べることといたします。

弁護士の使命が基本的人権の擁護及び社会正義の実現にあることは周知のとおりですが(弁護士法1条1項)、弁護士は、その使命に基づき、誠実に職務を行い、社会秩序の維持及び法律制度の改善に努力しなければなりません(同法1条2項)。そして、このような弁護士の使命と行動指針が公共的・公益的性格を強く持つことに照らし、弁護士には、弁護士会及び日弁連を通じた自治が認められています。私は、こうした弁護士及び弁護士会の本質を基軸として、当会及び日弁連での会務及び諸問題に取り組みたいと考えています。

広く社会全体に目を向けますと、社会構造の多極化・複雑化が進行していることに伴い、従来のような、公権力・私人、資本家・労働者、生産者・消費者、男性・女性といった、単純な対比によるものの見方では対応できない場面が増えています。そうした状況において基本的人権を擁護し社会正義を実現すべく法律制度の改善を図るうえでは、弁護士には、片面的な立場で権利・利益を主張するのではなく、異なる様々な立場(とりわけ少数者の立場)の権利・利益の確保にも配慮した、バランスの取れた提言が求められると考えています。とりわけ、弁護士は法律専門家ですので、司法を中心とする様々な分野において、対立する権利・利益の調整を法の作用で実現するための知識と能力が期待されるところであり、当会及び日弁連においても、専門家集団として、社会一般から尊重されるような意見発信に努めていく所存です。

他方、弁護士業界に目を転じますと、近時の弁護士数の急増により、弁護士会内部でも、会員相互の繋がりが弱まるとともに、会務との接点が希薄な会員が大多数を占めるようになっていることは否めません。こうした変化は、個々の会員が弁護士の使命と行動指針を改めて自覚し、反芻する契機を乏しくするもので、弁護士が弁護士法に示されている社会の期待に十分に応えられない状況を生み出し、弁護士自治が認められている基盤を揺るがすおそれがあります。そこで、多くの弁護士が弁護士会の活動を通じて相互に切磋琢磨し、弁護士の職責に改めて思いを致すことができるよう、弁護士会の求心力を強める施策に取り組みます。また、弁護士は自営業者である以上、適正な報酬を得られなければ、持続的に職務に従事することはできません。弁護士が価値ある職務に従事し続けられるよう、適正な報酬を伴う活動領域の拡大に向けて取り組む所存です。

また、当会の状況を見ますと、多様な会員を擁する大規模会であるが故に、個々の会員との接点を持つことや、きめ細やかな会員サービスを提供することが容易ではなくなっています。会員が当会に所属していることにメリットをより強く感じていただけるよう、会員サービスの向上に努め、また、それを会員の皆様に知っていただけるように、広報活動に注力していく所存です。そして、当会が今後も国内有数の弁護士会として弁護士業界を牽引していけるよう、中長期的観点からの戦略企画組織の在り方の検討など、新たな制度的基盤の強化や環境整備にも取り組んでいきたいと考えています。

以上の問題意識に基づき、以下では、5つの重点政策を掲げました。概ね、根源的・大局的課題から足元の課題へと視座を移していくもので、順に、「第1 | 人権・憲法・いのちを守る」、「第2 | 司法の発展に尽くす」、「第3 | 弁護士・弁護士会の問題に取り組む」、「第4 | 当会の会員サービスを向上させる」及び「第5 | 当会固有の諸課題に取り組む」です。各重点政策の具体的な内容につきましては、後に詳細を記載しておりますので、お目通しいただければ幸いです。

最後に、もとより浅学菲才の身ではありますが、当会会長に就任することとなりましたら、ご期待を裏切らないよう、職務に全力を尽くす所存です。会員の皆様のご支援・ご指導を何卒よろしくお願い申し上げます。

2024年(令和6年)1月23日
日下部 真治

略歴

1969年(昭和44年) 神奈川県で出生
1988年(昭和63年) 国立筑波大学附属駒場高等学校卒業
1993年(平成5年) 東京大学法学部卒業
1995年(平成7年) 最高裁判所司法研修所修了(47期)・第二東京弁護士会登録
  アンダーソン・毛利法律事務所(現アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業)入所(至現在)
1999年(平成11年) 米国ニューヨーク大学ロースクール卒業
2000年(平成12年) 米国ニューヨーク州弁護士登録

主な会務歴

第二東京弁護士会

2003年(平成15年) 常議員
2006年(平成18年) 司法修習委員会副委員長
2008年(平成20年) 財務委員会副委員長
2015年(平成27年) 司法制度調査会副委員長
2017年(平成29年) 副会長
2018年(平成30年) 常議員
2023年(令和5年) 総務委員会委員長(至現在)

関東弁護士会連合会

2017年(平成29年) 常務理事
2018年(平成30年) 理事

日本弁護士連合会

2009年(平成21年) 民事裁判手続に関する委員会委員(至現在)
2013年(平成25年) 民事司法改革推進本部(現民事司法改革総合推進本部)幹事(至現在)
2018年(平成30年) 民事裁判手続等のIT化に関する検討ワーキンググループ委員(至現在)
2019年(令和元年) 民事裁判手続に関する委員会委員長
2020年(令和2年) 常務理事
2021年(令和3年) 国際商事・投資仲裁ADRに関するワーキンググループ委員(至現在)
2023年(令和5年) AI戦略ワーキンググループ委員(至現在)

主な公職歴

2010年(平成22年) 最高裁判所司法研修所民事弁護教官(2013年まで)
2018年(平成30年) 公益社団法人日本仲裁人協会理事(至現在)
2018年(平成30年) 司法試験及び司法試験予備試験考査委員(民事訴訟法担当)(2021年まで)
2020年(令和2年) 法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会委員(2022年まで)
2022年(令和4年) 原子力損害賠償紛争審査会専門委員

5つの重点政策

第1

人権・憲法・いのちを守る

社会構造が多極化・複雑化し、多様性の受容を意味するダイバーシティ&インクルージョン(D&I)に向けた意識が国際的に高まっています。弁護士の使命である基本的人権の擁護と社会正義の実現のため、様々な立場の人々が相互の人権を尊重し合える社会の実現に取り組みます。

憲法の解釈や改正の問題に対しては、立憲主義を堅持する立場から、その重要性や意義を踏まえた意見発信や国民・市民への情報提供に努めます。

わが国では、人々のいのちを奪う災害をなくすことはできません。災害発生時に、多くの人々のいのち、健康、財産、地域社会などが失われることのないよう、被災者支援と弁護士会の業務継続の体制整備に努めます。

第2

司法の発展に尽くす

弁護士は、基本的人権の擁護及び社会正義の実現という使命に基き、社会秩序の維持及び法律制度の改善に努力しなければなりません。弁護士は社会の多様な局面で活躍できますが、法律専門家として、とりわけ、司法の発展に尽くすことが求められます。

社会が様々な立場の人々の相互関係で成り立っていること、また、司法が民主主義の下で軽視されがちな少数者の救済を担っていることを踏まえ、多くの人々の権利・利益を効率的に実現しながら、少数の人々の権利・利益の救済が適正、迅速かつ経済的に図られる民事司法と、犯罪抑止の効果を維持しながら、冤罪を許さず、被告人・被疑者の人権を不当に侵害しない刑事司法の実現に取り組みます。

法曹養成・法曹人口は、上記のような司法の発展のための基盤の問題です。社会が必要とする法曹の質・量を踏まえた取組みを進めます。

第3

弁護士・弁護士会の問題に取り組む

弁護士自治が認められているのは、弁護士が基本的人権の擁護及び社会正義の実現という使命を果たすために必要であるためです。会員数の増加に伴い会員間の結び付きが弱まるなか、弁護士自治の土台が揺らがないよう、弁護士会の求心力を強める施策に取り組みます。

男女共同参画とジェンダー平等は、弁護士業界においても重要な課題です。性やジェンダーを理由とする差別により弁護士の活躍が阻まれないよう、取組みを進めます。

弁護士の活動領域の拡大は、法の支配を社会の隅々に行きわたらせるうえで重要です。しかし、認知不足により弁護士の需要が喚起されていない分野や、適正な報酬を得られないために弁護士が持続的に活動し難い分野もあります。そうした分野でも弁護士が活動できるよう、環境整備に取り組みます。

第4

当会の会員サービスを向上させる

所属する会員へのサービスを向上させることは、弁護士会の執行を担う者の最も重要な職責の一つです。当会は全国有数の大規模会であり、とりわけ会員の多様性に富んでいます。そうした会員のニーズにきめ細かく対応することを目指し、業務支援と研修のさらなる向上に努めます。

当会でも60期代以下の若手層が会員全体の6割以上を占めていますが、その中には、執務環境、人間関係、顧客開拓、事件処理など、悩みを抱えている会員が少なくないように思います。当会がいっそうそうした会員の頼りになるよう、若手会員への支援に努めます。

会員サービスの向上は、会員に知ってもらわなければ意味がありません。より多くの会員にアウトリーチすることを目指し、会員向け広報活動に注力していきます。

第5

当会固有の諸課題に取り組む

当会にも固有の課題が少なからずあります。財政健全化、会務のデジタル化、新入会員増加のための施策検討、公設事務所の在り方検討など、近年の継続課題に引き続き取り組みます。

そのうえで、中長期的観点からの戦略企画組織の在り方と、総会及び役員選挙における諸手続のオンライン化の検討に新たに取り組みたいと考えています。前者は、当会の会員がこれからも様々な場面で活躍し続けられるための制度的基盤の強化を意図するもの、後者は、会員の負担を軽減し、全会員の意思をより会務に反映させるようにするための環境整備を意図するものです。

最後に、当会は2026年3月30日に創立100周年を迎えます。2024年度はそのための重要な準備期間です。全ての会員が当会への所属を誇ることができるよう、当会をより良い弁護士会にすべく、力を尽くします。

第1

人権・憲法・いのちを守る

(1)人権擁護活動

複雑化する現代社会において、巧妙化する消費者被害、子どもに対する虐待・いじめ、労働問題、貧困・格差の問題等に伴い生じる人権侵害が後を絶ちません。近年では、SNSによる人権侵害が増加しており、また、社会の高齢化や外国人労働者の増加に伴い、高齢者や外国人の人権を擁護する必要性も高い状況にあります。年々実感する地球温暖化などの環境問題についても、継続的な検討が必要です。

当会では、人権擁護委員会が、市民から申し立てられる様々な人権救済申立事件を調査し、必要に応じて勧告や意見の表明をすることにより、行政機関等による人権侵害状態を改善してきました。

基本的人権を擁護することは弁護士の使命であり、当会における人権擁護のための取組みは重要です。多様性の受容を意味するダイバーシティ&インクルージョン(D&I)に向けた意識が国際的に高まり、人権擁護の持つ意味も深みと広がりをみせています。

当会では、今後も、各種制度や委員会活動を通して、人権侵害を受けている人々や侵害されるおそれのある人々の権利を擁護するため、以下のような様々な活動に取り組んでいきます。

① 消費者

当会は、消費者問題対策委員会を中心に、悪徳商法、インターネット上の違法行為、特殊詐欺等の消費者問題への対応に力を入れています。QRコード決済や暗号資産(仮想通貨)等の決済手段の多様化、いわゆるGAFA等のデジタル・プラットフォーマーを巡る問題の国際化、特殊詐欺事案の組織化等、消費者問題はますます複雑化しており、消費者契約法等の関係法令の改正も相次いでいます。また、近年では特殊詐欺等の対応を謳う弁護士自体がいわゆる非弁業者と連携して消費者被害を発生させるという事案も確認されており、このような事案については非弁護士取締委員会においても積極的な対応を行います。当会は、2022年8月には「SNSサービスを利用した違法行為に対する意見書(弁護士会照会への対応)」を公表しており、引き続き、消費者被害の予防や被害者の救済のために、立法提言や、会員への情報提供、研修の充実化等に積極的に取り組みます。

② 高齢者・障がい者

高齢者や障がいを持つ方の権利擁護に関するニーズは年々大きくなっています。当会では、「ゆとり~な」における高齢者・障がい者向け各種相談事業、講師派遣、成年後見等候補者の名簿推薦等のほか、2017年に開始した当会のホームロイヤー制度による弁護士の派遣などを行ってきましたが、支援に繋がっていない人々の権利擁護を確保するため、自治体や外部機関等の支援者との連携をさらに進め、具体的支援の拡充に努めていきます。

また、2022年の第二期成年後見制度利用促進基本計画を受けた成年後見制度の運用の在り方や、支援につなげる地域連携ネットワークの仕組みの構築に関しても、関係機関との具体的連携に積極的に参加し、適切な協議を行っていきます。

③ 子ども、共同親権

近年、子どもの自殺が増加傾向にあり、子どもに対する虐待やいじめに関する痛ましい事件も多く、未来を託す子どもの人権を擁護する必要性が高まっています。

いじめ問題については、弁護士が第三者委員会の委員として果たす役割が大きく、当会では、弁護士委員の活動環境の確保等のサポートをするとともに、当会の相談窓口(キッズひまわりホットライン)の広報や「いじめ防止授業」等を積極的に進めてきました。子どもの悩みごとに直接対応するため、「弁護士子どもSNS相談」も実施しています。これらの取組みを継続するとともに、学校における体罰問題、少年法の適用年齢問題、子どもの手続代理人制度の活用・費用国費化の運動等にも対応していきます。

離婚後の共同親権に関する法制度の在り方については、様々な意見に耳を傾け、子どもにとって何が重要かという視点を大切にして検討していきます。

④ 労働者、労働問題

長時間労働の是正を含む働き方改革関連法が2019年4月に施行されていますが、長時間労働に伴う過労死の問題のみならず、ブラック企業、ハラスメントの横行、ワーキングプア問題など、様々な問題が噴出している状況にあります。いうまでもなく、働く人達の生命身体を守ることは最も重要な事項であり、これを実現するためには、弁護士が労使それぞれの立場から労働問題に積極的に関与し、労働関連法が定める基準に照らして実態の是正・改善を図っていくことが必要であると考えています。当会は、労働問題検討委員会の取組みや研修等を通じて、働きやすい、働きがいのある職場環境の実現を目指すとともに、そのような会員の活動を支援していきます。

⑤ 貧困、格差

わが国における経済格差は拡大し、シングルマザーの家庭や身寄りのない人などの貧困が社会問題となっています。当会は、引き続き、生活保護申請に対する弁護士の支援、申請拒否に対する運用改善の働きかけなど、経時的弱者保護のため実効性のある生活保護法制の立法・運用を目指していきます。

⑥ 犯罪被害者

2017年の第60回人権擁護大会の決議に沿って、犯罪被害者等の誰もが等しく充実した支援を受けることができる社会の実現を目指します。具体的には、経済的被害回復のための制度や損害賠償の実効性確保のための必要な措置などの検討・実施を求めていきます。また、犯罪被害者に十分な法的支援を届けるべく、被害者支援弁護士をさらに育成していくとともに、弁護士による被害者支援活動をいっそう拡充し、現在実施している東京地方検察庁、警視庁及び民間支援団体等の関係機関との連携も、さらなる充実を目指して進めていきます。

⑦ 外国人、ヘイトスピーチ

2023 年6月、出入国管理及び難民認定法の改正法が成立し、難民認定申請が3回目以降となる申請者について、原則、送還が可能となる内容となり、国際的にも懸念が表明されています。国会の審理において、日本の難民認定率の低さや、難民審査参与員の資質の問題、恣意的な配点など難民認定手続の問題も浮き彫りとなりました。また、技能実習制度の問題や入国管理センターにおける長期収容・死亡事故等の続出など、様々な在留外国人の人権が問題となっています。さらに、2016年にヘイトスピーチ解消法が施行されたにもかかわらず、国籍を理由とした差別やヘイトスピーチによる深刻な被害が続いています。定住化する外国人の親族・相続問題も十分に手当てされているとはいい難い状況です。

当会は、日弁連とも連携しながら、外国人の法律問題に対応できるための研修の強化を含め、人種的差別のない社会の実現に向けた諸活動を積極的に続けていきます。

⑧ 国際人権条約

人権の分野でもグローバルな視点が重要です。当会は、国際人権分野においても、さきがけとして、国際人権規約その他各人権条約に定める個人通報制度の導入と、国連の「国内人権機関の地位に関する原則(パリ原則)」に則った政府から独立した国内人権機関の設置を求めてきました。また、日弁連も、2019年の第62回人権擁護大会において「個人通報制度の導入と国内人権機関の設置を求める決議」を採択しています。息の長い取組みになりますが、引き続き個人通報制度の導入と国内人権機関の設置の実現に向けた活動に、日弁連及び他の弁護士会とも連携して力を尽くします。

⑨ 性の多様化

個人がいかなる性的指向や性自認を有するかは、個人の尊重と幸福追求権を規定する憲法13条により保障されており、これを理由とする差別は、法の下の平等を規定する憲法14条に反します。性的少数者の権利に対する意識を啓発し、多様な性の在り方を認めて性的少数者に対する差別を解消することは、憲法が保障する少数者の人権保障の理念に沿うものです。

当会は、LGBTに関する研修会の開催、出張講義、2016年の関弁連定期大会における「性的少数者の基本的人権の擁護及び多様な性を尊重する社会の実現を目指す宣言」の提案等の活動をしてきました。

2019年7月には、日弁連が「同性の当事者による婚姻に関する意見書」を発出しており、同性の婚姻に関する訴訟においては、複数の地方裁判所で、憲法違反や違憲状態であるとの判決が言い渡されています。国際機関からの勧告等も踏まえ、当会では、今後も、性の多様性を理解・啓発するための活動や相談体制の整備等を進めていきます。

⑩ 環境問題

世界各地で気温の極端な上昇がみられ、台風の巨大化や豪雨、森林火災等の頻発にも拍車がかかっています。わが国でも毎年各地で河川氾濫による水害や土砂災害が人々に甚大な被害をもたらし、様々な人権が現に脅かされ、将来世代の生存基盤も脅威にさらされています。気候変動を超えて気候危機というべき状況を踏まえ、日弁連も、2021年10月に、「気候危機を回避して持続可能な社会の実現を目指す宣言」を公表しています。

当会は、環境マネジメントシステム「KES」の認証を得ていますが、引き続き環境負荷の少ない組織体づくりに取り組むとともに、年々深刻化する環境問題の現状を踏まえて、時宜を得た各種問題提起・意見表明や、最先端の知見に基づく会員や市民への啓発・研修等の活動を行い、持続可能な社会を実現するための取組みを実践していきます。

⑪ 民事介入暴力

暴対法、政府指針、暴力団排除条例の制定や関係者の取組みにより、暴力団は着実に弱体化しています。しかし、2022年末時点で、未だ22,400人もの構成員・準構成員が存在し、殺人、暴行傷害、特殊詐欺等の詐欺、強盗、恐喝等の犯罪の被害にあう市民が存在します。また、みかじめ料の要求等の資金獲得活動による被害も後を絶ちません。

このような中、弁護士会が反社会的勢力による被害を防止し、また被害の回復を行うことは、人権の擁護及び法の支配の確立のために重要な活動です。近時では、特殊詐欺に関与した暴力団の組長に対する損害賠償請求訴訟を通じて被害者救済を実現したことは大きな成果です。反社会的勢力の活動の密行化への対応や、離脱者支援等の新たな課題への取組みも必要です。

当会は、新たな課題への対応を含め、積極的にこの重要な活動に取り組んでいきます。

⑫ 人権救済基金の活用

当会は、会員による人権擁護活動を支援するため、2011年に「人権救済基金」を設立し、人権侵害事件の解決に携わっている会員に対して弁護士費用等の必要な資金援助を行っております。今後も人権救済基金を活用していくことにより、人権侵害のない社会実現を目指した取組みを続けていきます。

⑬ SNSによる人権侵害

近時、SNSがよりいっそう普及するにつれて、SNS上でのプライバシー侵害や名誉毀損の被害が数多く見られるようになる中で、2022年10月1日には、改正プロバイダ責任制限法が施行され、被害者救済のため、発信者情報開示について新たな裁判手続(非訟手続)などが創設されました。当会としては、新たな制度が適切に運用されているかの確認をしたうえで、その運用改善により、被害者救済が実効的になされるべく提言等の取組みをするとともに、SNS上でのいじめ問題等の新たな人権侵害の類型に対しても、被害者救済のための活動を実施していきます。

⑭ 個人情報保護・情報公開

個人情報を含むデータを巡るさまざまな問題や事件が日々、報道されています。また、情報公開・公文書管理に関しても、政府がコロナ対応に関する情報公開に消極的であったり、裁判所における不透明な記録の廃棄が行われたりするなど、重大な問題が生じています。当会では、情報公開・個人情報保護委員会を中心に、情報公開の実践を行うほか、書籍の出版を含む最先端の取組みを続けており、引き続きこの問題に高い関心をもって対応していきます。

(2)立憲主義と憲法改正問題

① 立憲主義の堅持

国家権力を制約し、国民の基本的人権・自由を保障するという日本国憲法の立憲主義を堅持することは、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする弁護士と弁護士会の責務です。

憲法が国家権力を縛るものであることをあらためて確認し、立憲主義に違背する事態には毅然と対峙するとともに、このような立憲主義の重要性や憲法の意義を国民・市民に正確に知ってもらうための活動(知憲活動)にも力を入れていきます。

② いわゆる安全保障関連法

いわゆる安全保障関連法は、憲法改正手続を経ることなく、歴代内閣が憲法上許されないとしてきた集団的自衛権の行使を容認するものであって、憲法前文及び同第9条に定める恒久平和主義に反するものであるとともに、立憲主義に反しているといわざるを得ません。また、2022年12月には、敵基地攻撃能力や反撃能力の保有を内容とする、新たな国家安全保障戦略、国家防衛戦略及び防衛力整備計画が閣議決定されるなど、日本の平和と安全の在り方がますます問われています。

当会では、日弁連、関弁連、東弁、一弁と協力して、このような安全保障関連法の憲法的な問題を国民・市民に直接訴えかける街頭宣伝活動を続けており、今後も引き続き、国民・市民に問題点を分かりやすく伝える活動を推進していきます。

③ 憲法改正問題への対応

2018年3月、自民党憲法改正推進本部が、日本国憲法について、自衛隊明記、緊急事態対応、合区解消・地方公共団体、教育充実の4テーマからなる「条文イメージ・たたき台素案」を決定し、憲法改正に関する議論がなされていますが、そもそも、憲法改正に進む前に、憲法改正手続法(国民投票法)の種々の問題点を解消する必要があります。

当会としては、国民の間において十分な議論や理解のないまま憲法改正手続が進むことがないよう、会員や国民・市民に対して、法律家団体として適切な情報提供をするとともに、今後も憲法審査会の審議を含む憲法改正を巡る議論状況を注視しながら、立憲主義を堅持するという弁護士会の責務を果たしていきます。

また、当会は、2023年7月に公表した意見書において、憲法に緊急事態条項(緊急事態において、①内閣の発議を受けて各議院の出席議員の3分の2以上の多数の議決により国会議員の任期延長等を可能とする条項、②内閣総理大臣ないし内閣が、国会の審議を経ることなく、法律に代わる緊急政令を出し、財政支出を行えるようにする条項)を創設することに反対しており、かかる主張を堅持します。

(3)災害発生時の被災者支援

① 災害ケースマネジメントへの参加

災害列島であるわが国では、地震や風水害、土砂災害、さらには感染症のまん延といった多種多様な災害が毎年のように発生しています。国は2023年、関東大震災から100年の節目に、防災基本計画において「災害ケースマネジメントなどの被災者支援の仕組みの整備」を自治体の義務と明記するに至りました。

災害ケースマネジメントとは、「被災者一人ひとりの被災状況や生活状況の課題等を個別の相談等により把握した上で、必要に応じ専門的な能力をもつ関係者と連携しながら、当該課題等の解消に向けて継続的に支援することにより、被災者の自立・生活再建が進むようマネジメントする取組」をいいますが、弁護士会は「専門的な能力をもつ関係者」の中でもとりわけ重要な存在として位置づけられています。

当会においても、東京都下の自治体等との連携を含めて、災害発生時に総力を結集して災害ケースマネジメントに参加できる体制を整備していきます。

② 災害発生時の業務継続

弁護士会は、災害発生時にも中核となる業務を継続して適時的確に被災者支援を実践できるよう、平常時から準備をしておく必要があります。当会では既に、大規模地震及び感染症のまん延をそれぞれ想定した業務継続計画(BCP)を策定するとともに、裁判所・検察庁・法テラスとの間で大規模災害時の各庁の対応に関する協議会や、会員の安否確認の訓練(テスト)を毎年度実施するなどしています。今後も、災害に備え、これらの取組みを検証を加えながら継続していきます。

第2

司法の発展に尽くす

(1)民事司法改革

民事司法は、民事・家事・行政事件手続を中核とし、裁判外紛争解決(ADR)、相対交渉、法律相談等にも広く及ぶもので、人びとの市民生活や経済活動に密接に関わります。こうした人びとの権利を擁護し、法の支配を社会の隅々に行き渡らせるためには、民事司法の機能と司法アクセスを充実させるべく、必要な改革を不断に進めていくことが不可欠です。

こうした民事司法の改革は、1999年に内閣に司法制度改革審議会が設置されて以降、司法制度改革の一環として急速に進められました。しかし、2000年代前半に改革課題への手当てが概ね済むと、その後の動きは停滞しました。しかし、2019年4月には、「民事司法制度改革推進に関する関係府省庁連絡会議」が発足するなど、再び民事司法改革の動きが活発になっています。また、近時は、社会の様々な分野でAIの利用の在り方が議論されていますが、民事司法分野においても、非弁行為を禁じる弁護士法72条との関係を含め、重要な検討課題となっています。

当会は、先の民事司法改革において、有為な人材を数多く日弁連に送り込んだほか、当会の多くの関連委員会においても、制度の提言などで重要な役割を担ってきました。その民事司法改革の動きが再び活発となった現状において、当会は、引き続き、日弁連を牽引する役割を果たしていきます。

① 裁判のIT化

2018年6月に閣議決定された「未来投資戦略2018」では、民事裁判手続等のIT化に向けた政策が掲げられました。これを受けて、2022年5月には、民事訴訟法等の一部を改正する法律が、2023年6月には、民事関係手続等における情報通信技術の活用等の推進を図るための関係法律の整備に関する法律が成立し、民事裁判手続のIT化が広く図られることになりました。

今後は、IT化についての会員への支援、IT化の下の非弁活動の排除、IT化を踏まえた審理の在り方の検討など、弁護士会としての変化への対応が課題になります。当会としても、適正、迅速かつ経済的な手続が実現するよう、こうした課題への対応を進めていきます。

② 情報・証拠収集手段の拡充

民事訴訟を利用しやすく事案解明力のあるものとするためには、民事訴訟の当事者が早期に情報・証拠にアクセスし、収集できることが重要です。そうした認識の下、2021年2月から、公益社団法人商事法務研究会において、証拠収集手続の拡充等を中心とした民事訴訟法制の見直しのための研究会が、法改正に向けた本格的な調査・研究を開始しています。

情報・証拠収集手段の拡充は、民事訴訟における証拠偏在の是正や真実発見の促進に資するものですが、反面、個人の私生活上の重大な秘密や営業秘密など、秘匿性の高い情報への配慮も必要であり、適切なバランス感覚をもって実現を目指す必要があります。当会としても、日弁連を牽引し、情報・証拠収集手段の適切な拡充に向けて意見発信をしていきます。

③ 弁護士・依頼者の通信秘密保護

弁護士と依頼者の間の法的助言のための通信の秘密が民事手続、行政手続等における開示から保護されることは、依頼者が安心して弁護士に法律相談をするために極めて重要であり、社会の法令遵守を支える基盤ともいえるものです。このような弁護士・依頼者の通信秘密の保護は、欧米諸国においては、ほぼ共通する司法制度の原則として確立しています。しかしながら、わが国においては、依頼者については弁護士との通信の秘密が保障されているとはいい難い状況です。公正取引委員会の行政調査手続において、2020年12月より、一定の要件を満たす事業者と弁護士の間の通信の秘密を保護する「判別手続」が導入されたことは前進ですが、十分なものとはいえません。

当会でも、民事手続、行政手続等の各分野において、弁護士・依頼者の通信秘密保護制度の確立に向けて尽力していきます。

④ 国際仲裁

仲裁は、特に国際紛争においては裁判以上に活用されているといわれます。しかし、日本が国際仲裁における仲裁地として選択されることは少なく、それがわが国の企業に負担となってきたことは否めません。

こうした状況を受け、2023年4月には、仲裁法の一部を改正する法律が成立し、仲裁廷の発した暫定保全措置命令に執行力を付与するなど、わが国の仲裁法をさらに国際水準に押し上げ、また、その利便性を強化することとなりました。

しかし、わが国における国際仲裁の活性化のためには、法制面だけではなく、仲裁事件において活躍できる法律実務家の層を厚くすることが必要です。当会は、全国的に見ても、国際法務に携わっている会員や外国法事務弁護士会員が多く、そうした人的基盤を十分に活かし、国際仲裁を担う人材の育成に力を入れていきます。

⑤ 裁判所の基盤整備と司法アクセス

民事司法の基本的なインフラである裁判所の基盤整備は、国民の司法アクセスを十全なものとする上で極めて重要です。特に、事件数が増加している家庭裁判所の基盤整備は喫緊の課題です。日弁連は、2014年9月から約1年半にわたり、最高裁との間で「民事司法改革に関する日弁連・最高裁協議」を行い、そこでの基盤整備部会における協議の結果、労働審判実施支部の拡大、裁判所支部における支部長の常駐化、及び裁判官のてん補回数の増加につき、一定の成果を得ました。しかしながら、こうした成果は、日弁連が示していた基盤整備の具体的な提案の一部に過ぎず、今後も粘り強く最高裁に働きかけ続けることが重要です。当会は、引き続き、そうした働きかけに携わる弁護士を日弁連に送り出すとともに、そのバックアップに努めます。

⑥ 裁判所立川支部本庁化・弁護士会多摩支部本会化

裁判所の基盤整備の問題は、主に地方の弁護士会において切実な問題となっています。しかしながら、当会にとっても、420万人を超える多摩地域の市民の司法アクセスを改善し、地域司法サービスを充実させることは重要です。

そのため、裁判所立川支部本庁化、弁護士会多摩支部本会化については、多摩支部の意見も聞きながら、日弁連への働きかけ、非支部会員の支部入会の推進、多摩支部と本会の会務の連携等を通じて、早期の実現に向けた取組みを継続するとともに、弁護士会多摩支部の活動が、多摩地域に根差した充実したものになるよう、積極的な支援をしていきます。

⑦ 弁護士会の法律相談(法律相談センター)

当会では、都内各所に設置された法律相談センターの外、自治体やその他の団体と連携した法律相談の実施により、市民の司法アクセスの向上に努めています。

殊に相談内容に照らして弁護士を選んで予約できる「弁護士アポ」は、専門性の高い弁護士に相談したいという相談者のニーズに応えたものであり、今後、よりいっそう使いやすいシステムにしていくことが期待されています。

また、相談者の情報量も増加している昨今では、弁護士には正確な法的知識及びより高度な専門性が不可欠であることから、研修制度を充実させることにより、今後も信頼される弁護士会の法律相談を目指していきます。

⑧ 仲裁センター

全国に先駆けて設立された当会の仲裁センターは、民間ADR機関ならではの柔軟な手続で、簡易迅速に、公正で満足度の高い紛争解決を実現するとともに、医療、金融、国際家事、子ども・学校問題といった専門性の高い紛争にも対応する仕組みを整備してきました。また、2020年に開始した「フリーランス・トラブル110番」は年々利用が拡大しており、ODR(オンラインでの紛争解決)への関心も高まっています。さらに、2023年4月には、仲裁法の一部を改正する法律、調停に関するシンガポール条約の実施に関する法律及びいわゆるADR法の一部を改正する法律が成立し、同年10月には、わが国も上記シンガポール条約の締約国となるなど、ADRへの期待は国家レベルでもますます高まっています。

当会は、今後も引き続き紛争解決を通じた市民サービスを提供するとともに、いっそうの利用促進に取り組んでいきます。

⑨ 建築紛争(住宅紛争)

住宅の品質確保の促進等に関する法律(住宅品確法)、住宅瑕疵担保履行法に基づくADRとして、全国の弁護士会に住宅紛争審査会が設置され、各会の住宅紛争処理委員を中心として、住宅紛争の解決に当たっています。

先般、上記二法が改正され(2021年9月30日施行)、①住宅紛争処理に時効完成猶予効が付与されるとともに、②紛争処理の対象が、いわゆる2号保険付き住宅(リフォーム工事瑕疵保険、マンション等の大規模修繕瑕疵保険、既存住宅売買瑕疵保険等)へ拡大しました。コロナ対策としてIT化も検討され、すでに専門家相談にはWEB相談も導入されております。今後の課題としては、WEBによる紛争処理期日を開催することが挙げられます。

当会としても、かかる手続のIT化に向けて、規則改正やマニュアル作成等の環境整備をしていくことを検討していきます。

⑩ 弁護士に対するアクセス(弁護士の過疎・偏在の解消)

当会はこれまで、公設事務所である東京フロンティア基金法律事務所などにおいて、弁護士過疎地の公設事務所等で活躍できるよう多くの弁護士を養成し、全国各地に赴任させ、弁護士過疎・偏在対策に大いに貢献してきました。

昨今、弁護士過疎地域への赴任を希望する若手弁護士の減少傾向が指摘されており、赴任弁護士の養成は重要な課題となっています。そもそも、司法過疎問題は、司法人口過密問題と表裏をなしていますので、全国第3位の会員数を擁する当会は、引き続き過疎・偏在対策に取り組む必要があります。各地の公設事務所に赴任した弁護士の経験を法曹養成の場に活かし、赴任を希望する若手弁護士を増やすなど、国民・市民の弁護士に対するアクセス障害解消に努めていきます。

⑪ 家事法制・家事実務

近年の家事事件の増加や、家事に関する重要な法改正が相次いでいることを受け、当会では、家事法制に関する委員会を中心に、家事実務や法改正等に関して、多角的な視点から議論を深め、各種の対応をしています。

家事実務に関しては、家事事件の重要な各テーマについて、東京家裁と東京三会の協議会の実施や、家事調停協会や裁判官との意見交換等をしています。当会会員に対しては、家事事件の重要事項や法改正の内容を周知するための研修も実施しています。

また、共同親権等を含む法改正については、適時情報を共有するとともに、会員の様々な意見を踏まえながら議論をし、必要に応じて意見書の作成等をしています。

当会では、今後も、家事法制への対応を強化し、会員に対して家事事件に関する情報共有や研修等を積極的に行っていきます。

⑫ 行政訴訟

裁判所が行政訴訟を通じた国民・市民の権利利益の救済を怠る国家は、民主主義国家とはいえません。法の支配による国民・市民の権利利益の救済は、民主主義が妥当性を持つ前提であるからです。しかし、わが国の行政訴訟では、原告の勝訴率が極めて低くなっています。当会としては、行政訴訟を通じた救済が実効的なものとなるよう、各種制度の提言を含む活動に努めていきます。

⑬ 法テラス

日本司法支援センター(法テラス)は、民事法律扶助業務、司法過疎対策業務、国選弁護関連業務、犯罪被害者支援業務、法律援助事業などを行っており、当会でも、法律相談センター(霞が関・蒲田)での法テラスの指定相談場所としての対応、国選弁護人名簿の提供等により、特に低所得者の司法アクセスに貢献しています。

他方、法テラスの弁護士報酬基準については業務量に比して低額であるとの不満の声もあることから、今後も日弁連と協力し、問題点の検討及び改善に取り組んでいきます。

(2)刑事司法改革

裁判員制度の導入を中心とする一連の刑事司法改革を契機として、刑事裁判における当事者主義の徹底が強調されてきました。裁判所は、中立の判断者の立場に徹するとされています。したがって、弁護人の訴訟活動次第で結果が変わる可能性が高まり、弁護人の役割はいっそう重要になっています。

それに伴い、刑事弁護に関する研修や会員の弁護活動をサポートする体制を充実させる必要性も高まっており、弁護士会が果たすべき役割は重要です。

また、一連の刑事司法改革は、取調べの録音・録画の対象事件が一部の事件に限られ、全面証拠開示制度は導入されていないなど、未だ不十分といわざるを得ません。この改革をさらに推し進めるには、刑事手続をめぐる運用状況と問題点についての情報を集約し、具体的な立法事実を示してさらなる法改正を提言する必要があります。刑事司法分野におけるAIの利用の在り方も、今後、重要な検討課題になることが予想されます。これらの点においても弁護士会が果たすべき役割は極めて重要です。

① 人質司法の問題

身体拘束をめぐる制度改革及び運用改善は未だ不十分です。特に、否認や黙秘をしている被告人の身体拘束は全般的に長期にわたっています。そのことは、罪を犯していないのに虚偽自白をする動機付けになりかねず、「人質司法」の問題は未だ解決されていないというべきです。

この問題を解決するには、個々の弁護人が粘り強く身体拘束を争う弁護活動をするのみならず、身体拘束の運用を弁護士会が集約して、情報発信していくことが必要です。近時、保釈中の被告人が逃亡したごく一部の事案が広く報じられていますが、弁護士会からは、罪を犯していないのに身体拘束が長期化した事案などについての情報を発信して、身体拘束の運用改善とさらなる制度改革を提言していきます。

② 取調べの可視化

2019年6月に施行された改正刑訴法により、裁判員裁判対象事件及び検察独自捜査事件について、取調べの録音・録画が法制化されました。これまでの取調官の裁量による試行的な録音・録画とは異なり、対象事件についての取調べの全過程を録音・録画することを義務付けるものであり、取調官による違法ないし不適正な取調べを抑制する見地から重要な法改正であるといえます。

もっとも、録音・録画が義務付けられている事件は上述した一部の事件に限られていますから、未だ不十分です。違法ないし不適正な取調べがなされるおそれは、あらゆる事件にあるものです。そこで、取調べの録音・録画の対象事件をさらに拡大していくためにも、弁護士会として、引き続き問題事例の集積や情報発信に努め、全ての事件における取調べの全過程の録音・録画の法制化の実現に尽力します。

③ 証拠開示の拡充

2005年11月に施行された改正刑訴法によって公判前整理手続が導入され、被告人側に証拠開示請求権が認められました。さらに、2016年12月に施行された改正刑訴法によって、証拠一覧表交付請求権も認められました。

しかし、これらの請求権が認められるのは公判前整理手続又は期日間整理手続に付されている事件に限られ、また、公判前整理手続に付された事件においても、全ての証拠が開示されるわけではありません。刑事裁判においては、冤罪はあってはならないことですが、過去の再審無罪事件の教訓からも、冤罪防止のためには捜査機関が作成又は入手した証拠を広く被告人側に開示することの必要性は明らかです。

そこで、証拠開示制度のいっそうの拡充に向けて、現状の証拠開示制度の問題点の分析とさらなる法改正の提言を進めていきます。

④ 裁判員裁判

2009年に裁判員制度が導入されて14年が経過し、概ね安定した運用が定着してきたと思われますが、同時に課題も明らかになっています。

裁判員制度は、「広く一般の国民が、裁判官とともに責任を分担しつつ協働し、裁判内容の決定に主体的、実質的に関与することができる新たな制度」として導入されたものです(2001年6月12日付け「司法制度改革審議会意見書」)。その趣旨に鑑みれば、裁判員に選任された市民が、形式的にではなく「主体的、実質的に」審理と評議に関与しているのかが検証されなければなりません。これまでも当会では裁判員センターが中心となって裁判員裁判についての情報集約を行ってきましたが、その取組みを今後も継続し、裁判員制度をより良いものとしていく提言をしていく必要があります。

また、これまでの裁判員経験者のアンケートによると、残念ながら、弁護人の訴訟活動がわかりやすかったとの回答は、検察官の訴訟活動がわかりやすかったとの回答を下回り続けています。当会には、わが国における刑事弁護をリードしている会員が複数います。それらの会員を中心に、裁判員裁判に的確に対応できる態勢を整えるため、研修をいっそう充実させていきます。

⑤ 公判前整理手続

2005年に公判前整理手続の運用が始まってから現在まで、法曹三者で公判前整理手続の運用を巡って様々な議論が積み重ねられてきました。

裁判所関係者からは、しばしば公判前整理手続が長期化している旨の指摘がなされています。無用な長期化を避ける必要があるのは確かですが、十分な証拠開示を受けることなく拙速に公判前整理手続が終結してしまうようなことがあれば、被告人の防御権が著しく害されます。

また、公判前整理手続における争点整理の進め方についても、相応の技量が求められます。公判前整理手続に的確に対応するためには、弁護人が十分な技量をもっていることが極めて重要です。この点からも、刑事分野における研修のいっそうの充実を図ります。

⑥ 改正刑訴法下での刑事弁護活動

以上に述べてきたこと以外にも、近年順次施行されている改正刑訴法では、刑事免責制度、協議・合意制度(いわゆる司法取引制度)などの新たな制度が導入されています。めまぐるしく変わり続けている近時の刑事司法制度とその運用に的確に対応するために、刑事弁護についての専門性の高い会員のすそ野を広げるとともに、報酬面を含めた国選弁護の態勢の充実化も喫緊の課題であると考えられます。

⑦ 死刑制度、刑罰制度の在り方

死刑制度に関しては会内にも様々な意見があり、日弁連では2016年の第59回人権擁護大会で「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」が採択されているところです。冤罪で死刑となり、執行されてしまえば、二度と取り返しがつきません。他方で、犯罪被害者に寄り添うのも弁護士の責務です。それらの点も踏まえて、当会においても、死刑制度を含む刑罰制度全体に関する議論を深め、国民の議論を喚起していかなければなりません。

⑧ 冤罪被害者支援、再審手続の改正

冤罪は、絶対にあってはならない重大な人権侵害です。東京電力女性社員殺人事件においては、当会会員が中心となって再審無罪判決に至り、雪冤を果たすことができたことは、周知のとおりです。このように再審手続が冤罪被害者救済の最後の砦であることを踏まえて、再審弁護団を支援する体制を整えるとともに、再審手続における証拠開示制度の整備など、再審手続がその機能を十分に果たしていくための法改正についても提言をしていく必要があります。

⑨ 国選弁護報酬

刑事裁判における弁護人の役割の重要性が増しており、国選弁護を担う弁護士にも刑事裁判手続全般についての十分な知識と高い法廷弁護技術が求められています。めまぐるしく変わる制度と運用に的確に対応し、被疑者・被告人の利益を擁護するに足りる技量と経験をもつ国選弁護の担い手をさらに広げていくためには、国選弁護報酬の適正化も重要な課題です。刑事弁護の充実、専門化のためにも、日弁連とともに、引き続き、国選弁護報酬の適正化の早期実現を目指していきます。

⑩ 共謀罪、特定秘密保護法

従前から共謀罪の法制化について議論がなされてきました。共謀罪は犯罪の謀議自体を処罰の対象とするもので、日弁連は共謀罪の反対を掲げてきました。そうした中で2013年には特定秘密保護法が成立しました。今後も、特定秘密保護法の運用状況を監視するとともに、共謀罪の議論状況を日弁連とともに引き続き注視していきます。

⑪ デジタル化

刑事司法の分野ではデジタル化の遅れが指摘されており、現在デジタル化に向けた議論がなされています。AIの利用の在り方も、今後、重要な検討課題となることが予想されます。もっとも、AIの利用を含むデジタル化は、それ自体が目的化してはならず、被疑者・被告人の正当な権利実現に資するものでなければなりません。当会は、日弁連と協力し、デジタル化によって被疑者・被告人の権利制約が強まるものとならないよう、積極的に提言や働きかけを行っていきます。

(3)法曹養成問題・法曹人口問題

2001年の司法制度改革審議会意見書に始まる司法改革により、司法試験という「点」による選抜ではなく、法科大学院を中核とした「プロセス」としての法曹養成制度が構築されました。この制度のもとで教育を受けた多くの弁護士が様々な分野で活躍しています。他方で、様々な要因により、法曹志願者が減少するなど、新しい法曹養成制度は、困難な状況に直面しています。2015年6月、政府の法曹養成制度改革推進会議は、弁護士会を含む関係各所が、法曹有資格者の活動領域拡大に向けた取組みを継続すること、毎年1500人が輩出されるよう必要な取組みを進めること、法科大学院においてより充実した教育を目指すことなどを決定しました。そして、2019年には、法科大学院教育や司法試験に関する法改正を含む重要な制度改正がされるなど、種々の方策が講じられています。これらの動きを見極め、必要な施策を進めるとともに、積極的に提言を行っていく必要があります。

① 法科大学院制度の改革

2020年度より法学部等に「法曹コース」が設置され、学部3年での早期卒業と法科大学院既修者コース2年間の教育課程を組み合わせ、最短5年で学部と法科大学院を卒業できることになりました(いわゆる「3+2」)。さらに、2023年の司法試験より、修了見込みの資格で法科大学院在学中の受験が可能となり、このほど在学中受験者を含む最初の司法試験が実施されました。これらの改革により、法曹資格取得までの期間は短縮されましたが、期間短縮の結果、教育課程にどのような影響が及ぶのか、慎重に見極める必要があります。併せて、社会人、法学部以外の出身者等、多様な人材が法曹界に集まることを目指して構想された3年課程の未修者コースにおける教育をどのように充実させていくか、さらなる検討が求められています。

② 修習費用

司法修習期間中に給与又は修習給付金の支給を受けられなかった会員(新第65期から第70期までの約9700人)の経済的負担を軽減するため、日弁連は2019年3月開催の臨時総会において、これらの会員に20万円を給付する制度を創設しました。また、当会では、2019年1月開催の臨時総会において、これらの会員が納付した会館特別会費相当額を支援金として支給することを決議しました。これら経済的負担のための方策については、その後も引き続き検討が進められています。後進が経済的な不安なく司法修習を行える環境を整備することは、法曹志願者を増やすためにも極めて重要であり、今後も修習費用の問題について検討を続けます。

③ 法曹人口問題

日弁連は、2022年3月「法曹人口政策に関する当面の対処方針」を取りまとめ、現時点において、司法試験合格者に関してさらなる減員を提言しなければならない状況にはないとしました。この対処方針は、大幅に減員すべきという意見も踏まえながら、「業務量・求人量」「司法基盤整備の状況」及び「法曹の質」の観点から緻密な考察が加えられた結果です。法曹人口問題については、会員の中にも様々な意見があり、会内で意見をまとめることが極めて難しい問題の一つとなっています。この問題の検討に当たっては、法曹に対する社会のニーズを正しく捉え、ニーズに合った法曹を養成・輩出するという基本姿勢を忘れないことが必要です。

④ 法曹志願者への情報発信

法曹の魅力を広く法曹志願者に発信し、多くの多様な人材に法曹界へ目を向けてもらうことは、法曹の人的基盤を確固たるものにするために極めて重要なことです。日弁連では、「弁護士に会ってみよう!」「来たれ、リーガル女子」等、弁護士が高校生、大学生等に法曹の魅力を直接伝える取組みが続けられています。当会は、全国の弁護士会に先駆け、2016年度から大学生を対象とした法曹志願者増加の取組みとしての出張授業を開始し、その後、対象を中学生、高校生に広げて取組みを継続しています。2022年度には、パンフレット「弁護士・ミライ」を作成して当会ホームページで公開しています。このような取組みの継続・拡充を目指し、引き続き検討を続けます。

⑤ 弁護士任官

2001年の司法制度改革審議会意見書は、判事の給源の多元性を実質化するとともに、特例判事補制度の解消等のための判事の大幅増員に対応できるよう、弁護士任官を強力に推進する必要があると提言しています。弁護士任官は、国民が求める多様で豊かな知識、経験を備えた判事を確保する上で重要な意義を担うものですが、殊に常勤裁判官については、弁護士からの任官者数は十分なものとはいえません。弁護士任官は、今後、より積極的に活用される必要があります。

⑥ 法教育活動と講師派遣

当会は、一人一人を尊重する自由で公正な社会の将来を担う子どもたちに法や司法制度の基礎にある価値や考え方の理解を深めてもらうための様々な活動を、教育機関や教育現場と協力しながら行っています。具体的には、学校に弁護士を講師として派遣するデリバリー法律学習会(出前授業)、中学生や高校生を引率しての裁判傍聴とその解説、春休みや夏休みの期間に弁護士会館に子どもたちを招いてのジュニアロースクール等の法教育活動を積極的に行っています。参加する子どもや学校の数は増えており、教材開発も進んでいます。当会Webサイトを利用して法や弁護士会に関する情報発信も行っています。また、企業や団体向けの講師紹介を行っており、さらに活用されるように努めます。

第3

弁護士・弁護士会の問題に取り組む

(1)弁護士自治

弁護士が人権を擁護し社会正義を実現するためには、弁護士会が、国家権力による制約を受けず、自由かつ独立した立場になければなりません。そのための弁護士自治は、弁護士の使命を果たす上で根幹の制度といえます。

弁護士や弁護士会が社会的評価を十分に得られなければ、弁護士自治は、社会から否定されかねません。たとえば、弁護士がマネーロンダリングに関与すれば、弁護士及び弁護士会に対する社会的信用の失墜は明らかですし、マネーロンダリング対策に取り組む政府間組織であるFATF(Financial Action Task Force=金融活動作業部会)に対しても、弁護士会が適切に対応しなければ、弁護士自治を揺るがしかねない制度導入への議論につながります。そのため、FATF対応は、弁護士自治を堅持するために重要です。また、弁護士自治を活かして社会正義の実現を図るために、弁護士会が日本弁護士政治連盟と連携し、立法活動にも積極的に関与し提言していくことが必要です。

さらに、委員会は弁護士会の活動の中心であり、弁護士自治を維持するためには、委員会活動の活性化が重要です。若手会員が増加する中、若手が委員会に参加しやすい環境を整備していきます。加えて、弁護士に対する社会の信頼を損なうことがないよう、不祥事問題には毅然とした態度で臨み、非弁の取締りも強化していきます。綱紀・懲戒手続の効率化、事前公表制度による被害拡大の防止、市民相談窓口の充実等も図っていきます。

① マネーロンダリングとFATF対応

日弁連における依頼者の本人特定事項の確認及び記録保存等に関する規程は、依頼者の本人特定事項の確認及び記録保存等の履行状況の報告を会員の義務としています。これは、政府間会合であるFATFによる国際的なマネーロンダリング対策としての勧告への対応措置です。弁護士会による会員の履行状況の正確な把握、及びその履行が不十分な会員に対する指導が不十分であると判断された場合、疑わしい取引の報告義務など、弁護士の職の根幹に関わる制度の導入が議論されるおそれがあり、弁護士自治にも深刻な悪影響を及ぼしかねません。数年のうちの実施が見込まれるFATF第5次相互審査に向けて、日弁連及び全弁護士会は万全を期す必要があり、2023年3月には、犯罪収益移転防止法の改正に基づき、上記規程が改正され、報告事項が追加されています(2024年4月以降施行予定)。こうした問題意識を背景に、当会でも、引き続き会員が適切に義務を履行できるよう、情報提供や支援等に努めます。

② 弁政連

日本弁護士政治連盟(弁政連)では、日弁連の政策を立法等を通じて政治的に実現するための活動をしています。具体的には、日弁連執行部と各政党との懇談会を定期的に開催して、各種政策や取組みについての意見交換をしたり、国会の委員会などに所属する議員に対して要請活動を行ったりしています。

また、若手弁護士が中心的に活動を担っている企画委員会においては、主に弁護士資格を有する国会議員や、地方公共団体の長・議員の方とともに、様々なテーマについて、勉強会や意見交換会などを実施しています。

弁政連の活動が環境、消費者、労働、格差問題、司法制度、弁護士業務等の様々な問題に関わることに鑑み、当会では、当会の政策課題との関係を踏まえながら、弁政連の活動を注視していきます。

③ 委員会活動の活性化

弁護士自治を堅持するためには、会員自身が積極的に弁護士会の活動に参加し、これを支える必要があります。そこで、弁護士会の求心力を高め、委員会活動を活性化するための工夫が必要です。

2020年度は、新型コロナウイルスに対応するために、委員会へのオンライン参加が格段に促進されました。委員会活動のIT化は、来会が難しい会員の委員会参加を可能にするとともに、委員会活動の効率化やコスト削減にもつながることから、引き続き、その環境整備に努めていきます。他方、IT化に偏向して会員と会員との繋がりが希薄化しないよう、リアル参加の意義を踏まえ、バランスのとれた委員会運営に努めます。

④ 若手会員の会務活動への支援

弁護士自治を将来にわたり維持発展させていくためには、若手会員の当会に対する帰属意識を高め、若手会員の積極的な会務参加を促進することや、若手会員の意見を会務に反映させていくことが不可欠です。

当会では、弁護士登録10年以内の若手会員のみで構成される「NIBEN若手フォーラム」が、この役割の一端を担っています。同フォーラムでは、明るく、楽しく、自由にものがいえる雰囲気のもと、若手会員間の相互研鑽と親睦を図りながら、各種研修・勉強会・交流会、調査研究等を実施し、若手の意見を会務に反映させ、若手会員が他の委員会活動等に参加しやすくなるような取組みをしています。

当会では、今後も、同フォーラムを若手会員の会務参加の入り口として機能させるとともに、同フォーラムと各委員会との連携を図ることにより、当会において若手会員の活動の場を広げ、若手会員の意見を会務に反映させるようにしていきます。 

⑤ 綱紀・懲戒、非弁、市民相談、事前公表制度、不祥事対策

綱紀・懲戒制度は弁護士自治の中核をなす制度です。引き続き、綱紀・懲戒手続全体の効率化を図り、審理の充実と迅速を促進していきます。

また、近時、非弁業者の活動が巧妙化しているため、会員に対する研修・広報活動、非弁業者に対する警告・告発等を通じて、非弁提携の阻止を推進します。

市民に対しては、会員への苦情について市民相談窓口の充実に努める一方、被害拡大を防止するために事前公表制度を活用していきます。

さらに、会員が倫理制度の誤解やメンタル面の失調から不祥事を起こすことのないよう、会員への支援策として、倫理研修の実施のみならず、事前照会制度・倫理相談員あっせん制度によるサポート、メンタルヘルス対策等を、引き続き行っていきます。

(2)男女共同参画とジェンダー平等の推進

多様性の受容を意味するダイバーシティ&インクルージョン(D&I)に向けた意識が国際的に高まるなか、弁護士会においても、男女が共同で参画し、ジェンダーの平等が図られるべきことは当然です。

当会は2022年1月の臨時総会で第4次第二東京弁護士会男女共同参画基本計画を決議し、①パリテに向けて~女性会員割合の増加への取り組み~、②当会の政策・方針決定過程への女性会員の参加のさらなる推進、③ジェンダー平等の確立、の各項目について、第3次基本計画下での取組みの検証のほか、第4次基本計画における具体的な目標・アクションを定め、当会における男女共同参画とジェンダー平等の推進を図っています。

第4次基本計画に基づき、女性会員割合増加に向けた取組みやワーク・ライフ・バランスの実践及びITを活用した会務の効率化、会の政策・方針決定過程への女性の参加の推進、ジェンダーにかかる格差や差別の是正、広報啓発の充実、女性会員の業務分野拡大・開発、施策実現の鍵となる男性会員の働き方・意識の改革等、具体的な施策を進めていきます。

① クォータ制とファミリー・フレンドリー・アワード等

当会では、理事者(会長・副会長)における女性会員の占める割合を30%以上とするため、2014年10月以降、副会長6名のうち2名について、女性候補者を優先的に当選とするクォータ制を導入し、2016年度以降継続して2名以上の女性理事者が就任しています。

効果的・先駆的なワーク・ライフ・バランス推進策を実施している当会会員所属法律事務所を表彰するファミリー・フレンドリー・アワードは、2023年度で第10回の節目を迎えました。また、女性社外役員・社外役員希望者のための朝会やメンターとのキャリアプラン相談会を開催し、若手会員がキャリアについて考える機会の提供を行っています。

今後も当会はこれらの取組みの継続に努めます。

② オンラインによる委員会等への参加の拡大

IT化による委員会参加を促すため、当会では規則改正により2019年度からSkype等による委員会参加を出席として取り扱うこととなり、それに伴うインフラ整備にも取り組んできました。2020年度には、新型コロナウイルスの感染防止の観点からもオンライン化が進展し、委員会活動や研修においてウェブ会議の利用が広まり、現在も機密性の高い一部の委員会を除き、オンラインで委員会が開催されています。常議員会でも一定条件のもとでオンライン参加が可能となっています。

こうしたオンラインによる委員会等への参加の拡大は、会員一般に及ぶものですが、特に子育てや介護に携わっている女性会員の会務参加のハードルを下げるという点で、当会における男女共同参画の推進に資するものです。当会は、今後もITを利用して会務活動の活性化を図っていきます。

(3)弁護士の活動領域の拡大

法の支配を社会の隅々に行きわたらせるためには、これまでの業務にだけこだわるのではなく、弁護士が様々な分野において活躍する必要があります。対象も市民向けの法的サービスだけでなく、企業、特に中小企業や、行政などにも目を向ける必要があります。また、その活躍の方法も外部から法的サービスを提供するだけでなく、企業内弁護士のほか、官庁・地方自治体などの行政機関における法曹有資格者の任期付公務員、独立性を有する社外役員等、様々な立場からの支援や活躍に広まっています。さらに、活躍の範囲も社会の国際化に伴い、国内だけでなく海外へも目を向ける必要があります。この活躍の担い手は若手だけでなく、広く、中堅やベテランの弁護士も行うことができるものです。また、弁護士の活用がさらに図られるために、弁護士費用保険のいっそうの拡大・普及が必要です。

当会では、弁護士業務センターなどが中心となって新たな活動領域での業務拡大を図るべく活動をしていますが、今後はさらに活動を活発化させていくことが必要です。

① 中小企業支援、事業承継問題

わが国の企業のうち、約99%を中小企業が占め、雇用の約7割を担っていますが、大企業のように法務部門があることは少なく、また、法的なニーズに対して弁護士へのアクセスは十分とはいえない状況です。当会においても、弁護士業務センターが、金融機関などと連携しながら中小企業のニーズを掘り起こし、また、事業承継研究会や倒産法研究会などが各分野について研究も行っていますが、必ずしも中小企業の法的ニーズに応えきれているとはいえない状況です。新型コロナウイルス関連融資の返済期限を迎えることに備えた収益力の改善や事業再生支援が社会的にも重要視されています。また、少子高齢化社会において、経営資源の散逸を防ぐとともに、企業の成長に寄与する事業承継も引き続きクローズアップされています。当会としても研修を充実させるなどして、事業再構築も含めた中小企業の抱える様々な法的ニーズに対応できる弁護士を養成するとともに、そのようなニーズを掘り起こすための広報にも力を入れていきます。

② 組織内弁護士

日本組織内弁護士協会(JILA)によると、2023年6月時点で企業内弁護士は、全国で3184名、当会においても800名もの企業内弁護士がおり、当会会員の1割強を占めています。企業内弁護士や自治体・官庁の任期付公務員等の組織内弁護士は、法の支配を企業や行政などの組織に行き渡らせるためにも重要な存在となっており、今後も増加することが予想されます。

当会としては、2020年にJILAと締結した連携協定に則り、継続的な意見交換等により相互理解と協力を深めながら、組織内弁護士がその所属する組織で働きやすくするとともに、当会の構成員として活動をしやすくするための支援や環境整備をよりいっそう推進していきます。

③ 社外役員、第三者委員会

コーポレートガバナンス・コードは、2021年の改訂で東証プライム市場の上場企業に取締役会の3分の1以上を社外取締役にするよう求め、社外取締役の起用がさらに加速しております。経済産業省の2020年の調査によれば、全会社の社外取締役のうち弁護士は11.8%を占めており、経営経験者に次ぐ割合です。社内から独立した客観的立場から、株主の利益を守る「取締役会の監督機能の重要な担い手」としての社外役員は、高い専門性と多様性が求められ、今後もますますこの分野での弁護士のニーズは高まるものと考えられます。

当会では既に「社外役員候補者名簿」を作成し一般に公開していますが、さらに研修を充実させるなどして適任の社外役員候補を増やすとともに、複数の人材紹介業者との連携により、当該名簿の活用や広報にも力を入れて、企業における多様な人材登用に寄与します。

また、近年、企業等における不祥事の増加に伴い、弁護士が第三者委員会のメンバーとして選任される機会も増えています。第三者委員会がその任を適切に果たしていけるよう、十分な知識と能力を備えたメンバーの育成にも力を入れます。

④ 自治体との連携、自治体内弁護士の採用促進

近時、自治体には様々な課題に対応するための法務能力の向上が求められており、弁護士会との連携の必要性がますます高まっています。既に各委員会において自治体との連携が行われていますが、これをさらに強化するとともに、自治体の広範な法的ニーズに対応できる弁護士を養成していく必要があります。

また、全国の自治体で任期付職員等の自治体内弁護士を採用する動きが広がっていますが、十分な応募者がいない状況です。弁護士が自治体内でその専門能力を発揮することは、法の支配を身近な自治体にまで行き渡らせることにつながるものであり、弁護士の採用に向けて、広報活動を行うなど積極的な支援をしていく必要があります。

⑤ 立法活動への関与や提言

弁護士は、国会議員・地方自治体の首長・地方議会議員や政策担当秘書となって立法分野に進出するだけでなく、政府の審議会・委員会の委員等として立法過程に関与する、立法・法改正の際にパブリックコメントの募集に応じて意見を提出する、弁護士政治連盟の活動を通じて政党・国会議員等との意見交換や要請を行うなど、様々な形で立法活動に関与しています。弁護士が日常業務で直面する社会的課題を解決するためには、弁護士の中から立法分野に有為な人材を輩出するとともに弁護士会が積極的に立法活動に関わることが重要であり、多くの会員にその重要性を周知して関与の機会を増やしていく必要があります。

⑥ 国際化、国際活動

わが国の少子高齢化に伴い、国内市場が縮小していくことが予想され、その対応策として政府も海外市場への進出を推進しています。大企業のみならず中小企業も海外進出や海外取引の拡大を図り、それに伴い法的なトラブルの増加も予想されます。

当会では、台北律師公會やシンガポール弁護士会と相互の弁護士を紹介する制度を立ち上げるなど、当会の弁護士が海外に進出する企業にも法的支援ができる環境を整えてきました。ソウル弁護士会等、既に友好協定を締結している海外の弁護士会とも同様の制度を構築し、支援態勢のさらなる拡大を図ることも視野に入れて、セミナーや交換留学を含む人材育成・交流などにより、当会の弁護士の実力向上と人材育成を図ります。

2024年4月にはIPBA(環太平洋法曹協会)の年次大会の日本開催も控えています。IPBAは成り立ちから当会と深い関わりがあります。日本開催は当会の弁護士にとっても重要な国際活動の機会であり、積極的に支援していきます。

⑦ 弁護士費用保険

当会では2017年度からリーガル・アクセス・センター(LAC)運営委員会を立ち上げ、弁護士費用保険に対応した担当弁護士の紹介制度を運営しています。

当初、弁護士費用保険の対象は交通事故がメインでしたが、昨今、各保険会社で新商品の開発が進み、対象範囲も広がっていることから、弁護士の業務拡大も期待されています。

当会では、研修制度の充実、名簿作成や執務状況の報告等により、担当弁護士の質の確保や適切な指導・監督を行い、今後も依頼者や提携保険会社に信頼される制度運営に努めていきます。

⑧ 対外向け広報活動

対外向け広報活動を通じて、市民や企業の皆様に、法廷だけではない当会及び当会所属の弁護士の魅力ある活動を知ってもらうことは、弁護士の社会的役割に対する理解を深め、業務の拡大に資するとともに、弁護士を目指す後進を増やす意味でも重要な役割を有しています。

当会では、継続的にホームページのリニューアルをしていますが、アクセスを増やすためには、新たな魅力的なコンテンツを継続して提供していくことが重要です。委員会や個々の弁護士の魅力ある活動に関する情報収集を継続的に行って、ホームページを含めた各種媒体を活用して情報発信を行っていきます。また、潜在的な依頼者が、ホームページなどを通じて、必要な分野に関する専門性などを持った適切な弁護士にたどり着ける仕組みを構築することを検討します。

第4

当会の会員サービスを向上させる

(1)会員への業務支援

会員の業務支援は弁護士会の最も重要な役割の1つです。当会には合計6446人にも上る会員が属していますが(2023年10月1日現在)、期別に見ると30期代までが12%、40期代が8%、50期代が18%、60期代が40%、70期代が22%と多様な世代を抱えています。女性会員の占める割合も23%に上ります。このように多様な属性の会員の多様なニーズに応えるきめ細かな業務支援を行っていきます。

① 研修の充実と強化

弁護士人口の増加に伴って、新人弁護士に対して、従来のような長期間の修習や弁護士事務所における充実したOJTを維持することは困難になってきています。他方で、社会の複雑化や弁護士の活動領域の拡大に伴って、専門領域をもった弁護士への法的ニーズはますます高まってきています。

そのため、弁護士の最低限のスキル確保のための基礎的な研修と業務の拡大に資する専門的・先端的な研修の両方が必要とされています。

弁護士法72条によって法律業務の独占が認められている弁護士が、自ら研鎖を行うのは当然ですが、弁護士会としても、会員が研績に努められるように研修に力を入れていく必要があります。

② 事務所承継

当会の正会員全体に占める30期代より上の会員の割合は12%です(2023年10月現在)。そして、当会において1人で法律事務所を経営している会員の割合は21.1%です(2018年6月現在)。この統計から、今後、多くの1人事務所において事務所(ないし業務)の承継が大きな問題となっていくことが予想されます。当会には、高齢会員の業務を援助し、事務所承継を促進する制度として、協力弁護士制度がありますが、現状では十分に活用されていません。弁護士が市民や企業に継続的に良質な法的サービスを提供し続けるためには、当会としても事務所承継を円滑に行うための各種施策を講じていく必要があります。

③ 業務妨害

業務妨害の被害に遭う弁護士が少なくありません。過去には弁護士が殺害される不幸な事件もありました。最近ではインターネットによる誹謗中傷が増えています。法に基づく紛争解決を目指す弁護士に対して違法・不当な手段で業務を妨害することは、弁護士制度、ひいては法の支配に対する重大な挑戦であり、対象弁護士自身に任せるのではなく、弁護士会が支援し、組織として対処する必要があります。当会には弁護士業務妨害対策委員会があり、妨害を受けている会員弁護士から支援要請を受け、相談や事件受任等の支援を行っています。弁護士業務の安全と安心を支えるために、弁護士会は業務妨害に対する支援体制を整え、弁護士業務妨害に対して毅然と対処していきます。

④ 士業連携

当会では、2012年から士業交流会を継続的に開催しており、各種士業の中心となって士業交流を推進してきた歴史があります。また、各種の他士業団体と連携協定を締結しており、共同での法律相談や研修協力などを進めています。また、他士業ではありませんが、日本組織内弁護士協会(JILA)とも連携協定を締結し、共同研修の実施など協力関係を深めています。

当会は、今後もこの動きを維持・推進し、他士業との交流による会員の業務拡大や、法律相談・研修の共同化による会員の能力・サービスの向上を図り、全士業における弁護士のプレゼンスの維持・拡大に努めます。

(2)研修

近年、事務所の経営形態や弁護士の就業形態も多様化する中で、以前のように、新人弁護士が一つの事務所に長く勤め、その中で徐々に基礎的な経験を積んでいくというスキルアップの方法のみに期待することは難しくなっています。また、社会情勢の変化や今まで法的ニーズが乏しかった分野への法的ニーズの拡大に伴い、特定の専門分野の法的知識をもつ弁護士を求める声はますます高くなっています。 そのため、当会としても、基礎的、専門的、双方の研修を会員に提供していく必要があります。

① 多様な研修プログラムの提供

現在、当会の研修センターでは「基礎・一般研修」として1か月から2か月に1回程度、新しい研修を開催しており、その分野は、弁護士会照会やインボイス対応など弁護士業務に関する基礎的なものから、民事訴訟のIT化や改正プロバイダ責任制限法、被害者救済法、ステルスマーケティングなど、その時代の最先端のものに至るまで、幅広いものとなっています。また、講師もその分野に精通した方に依頼しています。

今後もこのような取組みを継続するとともに、当会新規登録弁護士向けのクラス別研修、法律研究会主催の研修及び東京三会が裁判官を講師に招いて合同で行う遺産分割や破産などの基礎分野の研修と連携をとり、より充実した、かつ「抜け」のない多様なプログラムを提供できるようにしていきます。

② 受講しやすい研修への取組み

以前は、多くが夕方6時から、しかも弁護士会館でのみ開催されていた研修も、現在は原則としてオンライン配信され、さらに、多くが後日、会員サービスサイトの「二弁YouTube動画研修」から見られるようになっています。これにより、会員それぞれが自らの都合の良いタイミングで研修を受講し、スキルアップできるようになりました。

今後もこの取組みを継続するとともに、より研修を受講しやすいように、多様な会員の意見を取り入れて、システムを改良していきます。

(3)若手会員支援

当会では、新規登録弁護士に対して、法律相談、労働事件、家事事件、交通事故事件等の基礎について、少人数のクラスによるゼミ形式での研修を実施しています。この研修では、実務上の経験をふまえた基礎的な知見を得ることができ、若手会員同士やクラス担任・副担任等が交流を図る機会にもなっています。

また、仕事、人間関係、家庭との両立等、悩みのある若手会員のために「メンター制度」があり、先輩弁護士が、若手会員に対して、個別相談や、イベントでの情報提供・懇談を通じて、支援を行っています。

主に即独・早独の若手会員に対して、指導担当弁護士が事件処理や事務所の経営等について指導を行い、OJTの機会を提供する指導担当弁護士制度があり、早期独立弁護士や、産休育休明け弁護士等を経済的に支援するため、一定の要件を満たした会員に対して、月額3万円以内の支援金(最初の支給月から1年以内)を支給する制度もあります。

公認会計士、税理士、司法書士、社会保険労務士等各分野の専門家を招き、若手会員との交流を深めるイベントを開催しており、若手会員に対して、有益と認める団体等が開催する各種国際会議の参加にあたり、大会参加費用を支給する支援等もしています。

当会では、様々な視点からこうした支援策に力を入れており、今後も引き続き若手支援に積極的に取り組んでいきます。

(4)会員向け広報活動

会員向け広報活動も、会員に対するサービスの充実、会務参加の動機付けのためには重要な役割を担っています。研修、法律相談、国選弁護、当番弁護などの各種情報を提供することで、会員のスキル向上や業務の充実を図るとともに、各種支援制度の紹介により弁護士のQOLの向上を目指すこと、弁護士会活動の魅力などを発信して会務活動を活性化することなどを目指します。

また、基幹システムの更新に着手し、紙媒体に頼らない会員への情報伝達方法の確立を目指し、二弁アプリ(miNiBen)などアクセスしやすい媒体を積極的に活用して、会員に対する情報発信に注力します。

第5

当会固有の諸課題に取り組む

① 当会の運営の在り方と諸課題に備えた財政

会員数の増加や弁護士の活動領域の拡大に伴い、当会の運営の在り方は現実的な課題となっています。当会の活動を支える事務局職員の適正な人数と配置、嘱託弁護士の効果的な活用が求められます。また、弁護士自治に基づいて活動するための基盤である財政については、当会や当会会員のために必要かつ効果的な支出を機動的に行うとともに、当会が今後も安定して活動できるための確固たる財務的基盤を考えなければなりません。基幹業務システムのリプレースや弁護士会館の維持管理、さらには今後の弁護士会の在り方等の重要課題について、当会の収支や繰越金の状況を注視しながら取り組む必要があります。これらについて、会員に広く情報発信と問題提起を行いながら、財務委員会等の関連委員会と共に将来を見据えた検討と対応を行っていきます。

② 会務のデジタル化・ペーパーレス化・IT化

当会では、2018年度から、会務のデジタル化・ペーパーレス化・IT化を推進しています。また、現在は、業務の基幹システムのリプレース作業が進められており、よりITを活用した会務運営が目指されています。次年度も会員の利便性向上、多様な会員に対する支援、経費の削減、環境負荷の低減を目指し、また、会務のユーザーでもある会員の声も踏まえて、引き続き会務のデジタル化・ペーパーレス化・IT化を推進します。

なお、ITによる大きな利便性として、手軽に意見を伝えられることが挙げられます。当会は会員数も多く、大多数の会員は、当会への要望や不満を当会に伝えたことはないものと思います。そうした会員の意見を当会が積極的に吸収できるようにすべく、ITを活用した仕組みの検討を進めます。

③ 二弁の未来PTと新入会員増加策

当会の人権擁護、法の支配、会員サービス、弁護士自治等の活動を充実かつ継続的に実施し、また当会の財政を安定させるため、当会の将来を担う次世代メンバーをできるだけ多く確保し、育成しなければなりません。このような観点から、当会では「二弁の未来プロジェクトチーム」を設置し、新規登録会員の獲得のための検討、活動を行っています。今年度、当会の新規登録会員が、東京三会の中で一番少ない人数に留まったことを踏まえ、次年度は、司法修習生をはじめとする当会への入会を検討する方々、その受け皿となる企業、官庁、法律事務所に対し、会員の多様性やそれに応じた当会の魅力的な支援策を、さらに広くかつ積極的に広報し、新規会員の獲得増に努めます。また、現状の会員支援策を検証して、利用が低調なものについては使いやすいよう改め、新たな支援策についても検討していきます。

④ 公設事務所

東京フロンティア基金法律事務所は、弁護士過疎解消のための地方赴任弁護士養成と公益事件の受任を目的に、当会が他会にさきがけて全国で最初の都市型公設事務所として設立した事務所であり、弁護士の偏在・過疎対策及び市民の司法アクセス障害を改善する役割を果たす点において、大いに貢献してきました。

他方、東京フロンティア基金法律事務所は、経営状況の悪化から、当会の財政的負担の増大を招いたため、2020年3月、在り方検討ワーキンググループより答申が出され、以後、答申に沿った運営を行うなど経営面の合理化を図っています。

引き続き、その経営状況を注視するとともに、同事務所が、赴任弁護士の養成、アウトリーチ型相談の模索等を通じて、あらゆる司法アクセスの障害の改善に貢献できるよう、適切な支援に努めるとともに、会員に対して、その情報を適切に開示していきます。

⑤ 弁護士会館問題

弁護士会館においては、2021年に20年目の大規模修繕工事を約10億円の費用を支出して完了し、次年度にはエレベータ改修工事を約6000万円の費用をかけ実施予定です。これら弁護士会館修繕等の費用は、基本財産基金特別会計で賄われるところ、同会計には2022年度決算時約39億円の繰越金があります。しかし、同会計の主たる収入であった会館特別会費は新65期以降の会員について納付義務が免除されたことから、今後、繰越金の増加は見込まれず、漸次減少していくことになります。そのため、今後も定期的に発生する修繕費用等をどのように賄っていくのかについて、基本財産基金特別会計の在り方、大規模修繕の在り方、弁護士会館の活用方法等も含め、中長期的な視点をもって検討を進めていきます。

⑥ 会員の互助と親睦

当会の会員は、互助会運営委員会やNIBEN若手フォーラムが企画・主催する行事に参加することにより、所属事務所等の枠を超えた交流を図ることができます。こうした交流は、会員の絆を深めることはもちろん、会員が日々の業務を進める上で必要となる知識・経験の共有にもつながり得るものであり、ひいては弁護士会の求心力の向上に資するものです。当会の会員数は6000名を超えており、会員相互間の交流が希薄化していることから、こうした交流の場が提供される必要性はますます高くなっています。

⑦ 他弁護士会、日弁連及び関弁連との連携

当会は、会員数全国第三の弁護士会であり、日弁連や関弁連の会務においても多くの会員が活躍しています。もっとも、分野によっては、当会の委員会等の活動が必ずしも日弁連等の活動と有機的に連携していないとの批判もあります。日弁連等への委員の推薦が有名無実化しないように、また、そうした委員や事務局を通じて日弁連等との緊密な情報共有がなされるように、連携機能が不十分になっている分野の是正・改善を積極的に図っていきます。

また、全国的な活動を進めるうえでは他の弁護士会との連携も重要ですが、特に東京弁護士会及び第一東京弁護士会との連携は、東京地家裁、東京地検をはじめ在京関係諸機関との関係の維持発展のために重要であり、相互に切磋琢磨しながらも、引き続き健全な関係の維持に努めます。

⑧ 大規模事務所との意見交換

当会は、大都市に所在する弁護士会であり、いわゆる大規模事務所に所属している会員が多くいます。しかし、そうした会員の多くは会務への関わりがごく限定的であることは否めず、また、特に近時は、大規模事務所の新入会員が東京の他の弁護士会に登録する例が増えつつあり、当会の人的・経済的基盤が弱体化するおそれが強まっています。

そこで、当会をより魅力的な弁護士会にすべく、こうした大規模事務所との意見交換を積極的に行い、それらが当会に対して持つ要望や不満を率直に聴き取り、改善すべき点の発見・検討に努めます。

⑨ 中長期的観点からの戦略企画組織

当会でも毎年度の執行部が1年任期の中で政策の立案・実施をするため、前年度及び次年度との政策課題の引継ぎはあっても、それを超える年度にわたる政策の立案・実施に困難を伴うという構造的要因があります。委員会やワーキンググループの中には、複数年度を見据えた活動方針を立てるところもありますが、執行部が毎年度交代するという制約を受けざるを得ません。こうした事情は、財務、人事、組織編成、渉外等、中長期的観点からの戦略的な企画を特に要する分野において、当会が潜在的な力を十二分に発揮するうえでの障害になり得ます。

こうした問題意識から、当会の実情をよく知り、またその運営に携わっている会員の意見を踏まえ、中長期的観点からの戦略企画組織の在り方の検討を進めます。

⑩ 総会及び役員選挙における諸手続のオンライン化の検討

当会の全会員の意思を会務に直接反映させる機会として、総会及び役員等選挙は極めて重要です。しかし、現時点において、これらにおける諸手続でのITの活用は不十分であり、各会員は依然としてペーパーでの対応を求められています。これは、少なからぬ会員が議決権や投票権を行使しない原因にもなるものであり、改善が大いに求められます。議決や選挙の適正を保つために考慮しなければならない事項は多く、また、現在リプレース作業が進められている当会の業務の基幹システムにおける技術的対応も必要ですが、できる範囲からでも実現していけるよう、オンライン化の検討を進めます。

⑪ 当会100周年に向けて

2026年3月30日、当会は創立100周年を迎えます。100年間にわたって積み重ねられてきた先人の軌跡を振り返るとともに、これから先の100年を見据え、これからの弁護士、弁護士会はどうあるべきかを考えるきっかけとしたいと考えています。2024年度は、そのための重要な準備期間となります。できるだけ多くの会員のご意見をうかがい、会員の皆様方に、当会の弁護士であることに誇りと魅力を感じ、「自分は二弁の会員で良かった」、「これからも二弁を盛り上げていこう」と思っていただけるような企画を練り上げていきたいと思います。

パンフレット [964KB]